さてと、函館・宝来町にやってきてみれば高田屋嘉兵衛の像に遭遇したわけですが、そもこれを見るために足を運んだわけでもないのでして。明治40年(1908年)以前は松風町でなくしてこちらの宝来町の方に遊郭があったようす。それだけ古くに町の繁栄があったということなのでしょう、実に古風な造りの建物に出くわしたりするのですなあ。

 

 

いかにも歴史のありそうなそうで、店構えではありませんか。昨今のTVで名店紹介などというときには(1945年の)戦後創業であっても「老舗」と言われることがある中(確かに70年は続いているにせよ)、こちらの「千秋庵総本家」なる和菓子店に至っては万延元年(1860年)創業とは160年以上の歴史を誇るわけですから、誰も文句のつけようのない老舗中の老舗であろうかと。

 

こうなると千秋庵HPで沿革などを探りたくなるところでして、「弊社の創業は1860年(萬延元年)、秋田藩士だった初代「佐々木吉兵衛」が、日米和親条約の開港で沸く函館にわたり菓子売りを始めたところまで遡ります」と。東京にも秋田藩ゆかりの所蔵品を収める「千秋文庫」というのがありますけれど、秋田の「秋」に長久を意味する「千」をかぶせて「千秋」とは、秋田城跡の公園にもその名があるとおり、秋田とのゆかりを示すものだったのですな。

 

その後、函館発祥の千秋庵は小樽、旭川、釧路、そして札幌とのれん分けがなされたそうな。「マルセイバターサンド」で全国的に知られる「六花亭」も、元々は帯広千秋庵として創業したということでありますよ。

 

ところで、店構えは渋いながら総本家の方も歴史頼みの和菓子店とは言えないようで、函館ならでは進取の気性があるのか、名物どらやきに加えて「函館ふぃなんしぇ」(商品名としてひらがな書き)が並んでいたりもするのですなあ。「日持ちのするものでは…」とおすすめされたのが「元祖山親父」というひと品。要するにゴーフルでありましょうかね。

 

 

ヒグマのことを指す山親父がかんじきを履いてしゃけを背負っていく姿を菓子自体にも配した、かわいらしい意匠です。サクサクと軽い触感は夏向きですなあ。さすがに暑い暑い日にべた甘のどら焼きはどうも…と(お好きな方もおいででしょうが…)。

 

と、千秋庵のもそっと奥には「茶房ひし伊」という蔵カフェがあるということでしたので、ちとひと休みをすることに。

 

 

かつては質屋を営んでいたということで、手前側が店舗、奥が質入れ品を預かる蔵ということで。いっとき、函館の小学校で代用教員を務めた石川啄木の奥さんも利用したという質屋だけに、蔵に収められた啄木の品はいったいなんであったのでしょうかね。返済できずに流されてしまったかも…。

 

 

ともあれ中へと入りますと、こういうところはインテリアに凝っておりますね。『ふるカフェ系 ハルさんの休日』なんつうTV番組ができるのも、古い建物を利用してそれぞれに個性的な設えをしているのが人気を読んだりするのでしょう。と、ハルさんではありませんので店内の写真はともかく(結構な客入りだったもので)、どうやら推しメニューらしいものを頼んでみましたですよ。それが、こちら。

 

 

函館でもそこここでソフトクリームを売っていたりしましたですが、何しろ雨に降り込められてばかりでとても食する気になってならずじまい。それがいざ帰る日となりますと「食べ忘れた感」が湧いてもきたものですから、こうした品を。これはコーヒー付きの「ミニパフェ・セット」でしたので、パフェそのものはもそっとデラックスなのでしょうけれど、これで十分でありますよ。

 

そんな蔵カフェでひと休みの後、宝来町の電停方面へと向かいますと、「ああ、こっちも老舗っぽいな」という店構えに遭遇したのですね。角の部分は昭和の看板建築を後付けしたのでしょうけれど、右手の路地側は年季が入っておりますな。

 

 

「阿さ利本店」というこちらのお店、「すき焼」ののれんが見えておりますように、1901年(明治34年)創業ですき焼きを出す店となれば「文明開化」の音が聞こえてきそうではありませんか。心惹かれるものはありましたけれどお値段も相応で…と立ち去ったところ、函館空港に着いて遅めの昼飯をとレストランに入りますと、「阿さ利本店」とのコラボ・メニューとやらが。これは背中を押されたようなものであろうかと。

 

 

奇しくも宝来町の老舗の味を空港で食することになりましたが、ま、値段的にすき焼きといいつつも鶏肉で…。たいそうおいしくいただきましたけれど、やっぱり文明開化の音を聞くには牛肉でしょうけどねえ…。

 

と、最後の最後は食べる話ばかりになりましたけれど、こたびの「道南函館紀行」はこれにて読み終わりでございます。これからまだまだ暑い日々が続きますので、また北海道へも行きたいと早々に考えていたりするのでありますよ(笑)。

 

 


 

 

ひとしきり区切りがついたところで、明日(8/3)はお休みを頂戴いたします。ちと母親の具合がよろしくないということで通院の介助に出向くものですから。では、明後日(8/4)にまたお目にかかります。