かつて『スーパーサイズミー』というドキュメンタリー映画がありましたですね。1日3食、ひと月にわたってファストフードばかり食べ続けたらどうなるか、その経過を追った映画…だと思いますが、「だと思う」というのは見ていないから。「食」の健全性に関わって興味はありますけれど、おそらくは不健康な結果を招くであろう試みに自分の体を曝すという点で、目を瞑ってしまっていたような次第。つまりは未見なのですけれど、不用意に『あまくない砂糖の話』を見てしまいましたら、似たような試みだったのですなあ…。
ただ、単に「砂糖」と聞いただけでは「そりゃあ、過剰摂取はよくなかろうけれどねえ…」と。欧米の映画などでコーヒーやら紅茶やらに山盛りの砂糖を何杯もいれるようすが写されていたりしますし、彼の地へ出向けば実際に目の当たりにもする。そういう日常的な過剰摂取がある土地柄だからの映画であるかなとも思っていたですが、「そうとも言えんぞ」(例によって、『太陽に吠えろ!」の山さんふうに、笑)と思えてもくるのでありまして。
オーストラリアの、本人はかなり健康的な食生活を送っていた男性(映画の中で、彼女の気を引くためだったと白状しておりました)が、国内の平均的な1日の砂糖の摂取量を、60日間にわたってきちんきちんと摂っていったらどうなるかと試みたお話です。平均的なと言いながら、それが実は多いんじゃね?と想像できたところから始まった話でしょうけれど、1日あたりでいえばティースプーン換算で40杯分というのがオーストラリアでの平均値のようですな。
当の本人は砂糖をまんま口に入れるということのおよそ無い生活であっただけに、それだけの量を摂取するにはどれほどのジャンクフード、菓子類などを食さねばならないのかと思ったところが、ちゃんとプロジェクトには専門家チームが付いており、その専門家の曰く、お菓子屋などに行く必要はないのであって、普通にスーパーで買物をすれば良いというのですな。つまりは、スーパーで売られている食品を普通の人が食するくらいに買って食べれば、自ずとスプーン40杯相当が摂取されてしまうのであると。
ここまでの話で、すでに他人事ではなくなってきてますですね。確かに海の向こうに人たちは過剰に糖分を摂っていよう、なんとなればコーラやらはがぶ飲み状態だし、でっかりアイスクリームを食ってるし、コーヒー・紅茶には砂糖ざくざく入れるし…と言うところからの想像であったところが、日常的にスーパーで買う食品にすでにして相当量の糖分が入り込んでいるとなれば、絶対量の違いはともかく、気に掛ける必要はありそうですものね。
元来、糖分はヒトの体に必要なものであることは先日読んだ『肝臓のはなし』でも明らかですけれど、ヒトが砂糖を潤沢に得られるようになったのは長い人類史の中で最近のことであるのですよね。かつては糖分を得るのがなかなかに難しい現実があって、それでも頭を働かせられるようにヒトの体は出来上がっていったわけです。オーストラリアが舞台であるだけに、先住民アボリジニに人たちはしばらく前までほとんど糖分を摂っていなかった。それこそ、おなかに蜜をため込んで膨らんだアリを食べたりしていたのですし。
それが現代的な生活様式が持ち込まれ、住んでいる近くにスーパーなどもできてきますと、いわゆる一般的な欧米並みの食生活に変化していきますが、結果として病気を抱える人たちがたくさんになってしまった。今回自らの体でもって試している映画の主人公もまた、みるみる太って、いかにも不健康そうになっていくのですなあ。カロリー総量は実験を始める以前と変わりませんので、肥満予防としてカロリーの多寡ばかりを気にするのは、どうやら的外れだったりもするようです。実際、映画に関わる専門家チームに栄養士の方などもいるのですけれど、自分たちの発信の仕方おカロリー量という以上に摂取するカロリーの中身、摂り方にこそ注意を向けるべきであったというようなことを言っておりましたしね。
過剰な糖分は内臓脂肪をため込む結果を引き起こしてしまう。しかも、脳を働かせる栄養は糖分ですので、これが摂取されると脳は喜んでしまう。これがあたかもドラッグ並みに「もっともっと感」を生んでしまったりもするようなのですよね。かつてのように糖の摂取が難しかった時代ではなくなっているのに…。
話の後半、実験途中で主人公氏はオーストラリア以上に酷い(?)状況と思しきアメリカに乗り込んで行って、さまざまな見聞きに愕然とするのですよね。要するに「とにかく売らんかな」の企業としては食品に糖分を加えて限りなく「もっともっと感」に働きかける作戦に出ているようで。何しろ、別のドキュメンタリー(『キング・コーン』)でも触れられていましたように、アメリカとしてはありあまるほどのとうもころし(これも食品に添加される糖分の元になりますね)がありながら、増産に補助金を出していたりするのですし。
これまで見てきた「食」に関するドキュメンタリーは、農薬がよろしくない、遺伝子組み換えはどうよ、大量消費といえども追いつかないくらいの大量生産っていったい?…といったあたりが問題であったように思いますけれど、そればかりではないことがまだあったということになりましょうか。それにしても、企業の論理というのは「どうしてこうなるかな…」ということが平気で行われてしまう。全くもって人間ってやつは…。買う側もまんまと釣り込まれないだけの知恵を身に付けなくてはいけんのでしょうなあ。世知辛いです。