「あなたの体も“とうもろこし”で出来ている?!」というキャッチでもって

2009年に公開されたドキュメンタリー映画「キング・コーン 世界を作る魔法の一粒」を見てみたのでありますよ。

 

 

冒頭に登場する学者先生の曰く、髪の毛を分析すると人体を構成する要素が分かるというのですな。

何を食べて今の体が出来上がっているのか、髪の毛は食の歴史のテープレコーダーみたいなものだとか。

 

そこで、この映画の出演者(製作にも名を連ねる)であるイアンとカートは早速に髪の毛を分析してもらうことに。

すると、ざっくり言ってしまえば「あなたの体はとうもろこしで出来ています」という結果が示され、驚くふたり。

「それほどにとうもろこしばかり食べてはいないのに…」と思うわけですな。

 

そこで、とうもろこしの生産から流通まで逐一体験してみようと、

全米一のとうもろこし産地とされるアイオワ州(ポテトはアイダホですが…)に出向き、

まずは土地を借りて栽培を始めることにしたのでありますよ。

 

機器やタネ、肥料、農薬の一切合切を借り入れて、一エーカー(約4000平米)の土地に作付けを始める。

この時点ですでに国からの助成金があるということに気付かされるのですな。

とうもろこしの栽培は国の補助事業であるということで、手広く栽培を手掛けるほどに助成金は増えると。

 

畑が広くなればなるほど掛かる経費ばかりではありませんから、その分、儲かる可能性が大きくなるわけで、

あたりはどんどんと大型農場に集約されていってもいるようです。

 

そんなふうにこぞってとうもろこし生産に取り組めば、当然に予測できることながら過剰生産になる。

そんなにとうもろこしを食べる人がいるのであろうかと思うわけですが、

ここで最初に体の(炭素)成分がとうもろこし由来と指摘されたことを思い出してみれば、

自覚的にとうもろこしばかりを食べていないことに思い当たるだけに、違う形で摂取しているわけなのですね。

 

とうもろこしを飼料にして育った家畜類の肉を、とうもろこしから作った油で調理しているとか。

とうもろこしを使って作りだした甘味料の添加された飲み物を飲んでいるとか。

およそファストフード店で食べるものは、極端な話、とうもろこしを食べるのと同じようなことなんだそうですよ。

また、スーパーを巡って手にする品々の裏を返して成分表をみれば、「あれも、これも」と。

 

とまあ、そんなことも含めていろいろなことを、イアンとカートが知っていくにつれて、

見ている側も「そうなんだ」となるのですなあ。

 

収穫を迎えて、実ったとうもろこしにかぶりついた二人がともども、「まずい!」と思わず。

これを土地の貸主に尋ねてみれば、当然のことと笑い飛ばされてしますのですな。

周りも含めて広大な畑で作られているとうもろこしは「食用ではない」と、いまさらながらに知る二人。

 

結局のところすべてが飼料として、肥料として、加工品として出回るわけですが、何しろ膨大な量で、

実は過剰生産とは生産者の側も分かっている。助成している国も分かっている。

国内消費に余る部分は皆海外に買ってもらう(押し付ける)構図となっているのであるようで。

 

実はこれだけとうもろこし漬けになっていると、さすがに健康被害的なる部分にも触れるところがありまして、

特に清涼?炭酸飲料の甘味料にはほとんどトウモロコシ由来が使われているわけですが、

これが相当に肥満の要因になっておると、アメリカ人でも?気付いているそうな。

それがどんどん日本でも使われているのですから、対岸の火事とばかりも言っておられないような。

絶対的な摂取量に彼我の違いは大きいでしょうけれどね。

 

ただ、そうはいってもアメリカでのとうもろこし生産はほぼほぼすべてが遺伝子組み換えの種子を使って、

そのまま食用ではないからということかもしれませんけれど、結局は巡り巡って口に入るものなのですけれど。

だいたい飼料にするといっても、そもそも草を食んでいた牛たちにとうもろこしを与えると必ず病気になるから

ほどほどに与えんといけんということも分かっていてやっているというのは、いったいどうなんでしょうねえ…。

 

とまあ、気付かされることのあれこれ、これ以上は映画そのものに譲るとしまして、もうひとことだけ。

かつてアメリカでとうもろこし栽培をするのは大変な労力が必要であったと。

しかも供給過剰にならないように生産調整し、むしろ作りすぎないことに国の助成金が出ていたそうな。

 

それがだんだんと機械化が進み、農場の大規模が進みとなりますと、

農園にも儲けさせてやらねばという考えも出てくる。作れるのならたくさん作って結構です。

たくさん作っても相応に助成(先にふれましたとおり)しますよと、国が言い出すのですな。

出来たものは外国にも売りさばけばいいということで、かくてアメリカは世界一のとうもろこし生産国になるわけです。

 

これって、果たしていいことだったんでしょうかね…と思うところながら、

確かにこうしたことを通じて農家の方々は裕福になったようです。

それが農場の大規模化を後押しもしたようですし。だから、正しい政策だったのだと、

1973年の政策転換当時のバッツ元農務長官は、映画の中でもインタビューに自信をもって答えている。

 

ものの見方が一様でないことの顕著な例でもありましょうか。

ただ結果としては、過剰生産のとうもろこしを使って、次々利用法が考えだされ、

その利用法でもって世界中にアメリカの(しかも遺伝子組み換えの)とうもろこしが行きわたるという状況に。

そうであっても、正しい政策だったと言えるのであろうかな…と考えてしまうところなのでありますよ。