山梨県の北杜市考古資料館を訪ねて展示を見て回る話の途中ですが、資料館から遠からぬところにある縄文遺跡を訪ねたというお話に。八ヶ岳から広がる裾野の続きとして、なだらかな斜面が一面の農地になっておりまして、パッと見では「果たしてどこが遺跡であるか?」と思うようなところでありましたよ。

 

 

ちょうどこんもりと木が茂っているあたりが国指定遺跡「金生遺跡」でして、彼方には木々の間からうっすらと甲斐駒ヶ岳が覗いておりますな。うしろを振り返れば、ど~んと八ヶ岳の広がりある姿が目に飛び込んできます。眺めのいい場所に遺跡があったものだと思うところですが、「縄文時代の後期から晩期にかけて祭祀を行った場所とされています」と「ほくとナビ」HPに紹介されておりますように、「祈りの場」だからこそそのロケーションにはこだわりがあったのかも…と想像したくもなりますなあ。

 

 

保存されている範囲はさほど広くはありませんけれど、ともあれ中央に見える石の連なりが配石遺構、つまりは「祈りの場」であったようで、その右手側にひとつ再現住居がありまして、そのあたりが集落となっていたようですなあ。

 

 

 

「祈りの場」とされる辺りからは八ヶ岳の連なりがよおく見えますな。やはり、こうした眺めから山の恵みに対する感謝の念なども感じていたのでしょうかね。ちなみに遠望する八ヶ岳のちょうど手前にあるこんもりとした高まりは、谷戸城址のあるところ。北杜市考古資料館は谷戸城址の裾を巻いて向こう側にあたります。

 

と、現地のようすに触れたところで資料館に展示されていた金生遺跡の出土品を見ておこうかと。とりわけ、特異な形が印象的な「中空土偶」は欠かせませんですねえ。

 

 

どうです?インパクトありますよね。資料館の解説をちと引いておくといたします。

頭部の下がすぐ下半身となり、上半身が省略されている。中は空洞で、正面にタコのような口がある。頭部上半は、透かし彫りのような作りで、全部で11個の孔がある。正面の大きい2つの孔が目となる。
東北地方の遮光器土偶の要素が見られるが、本物とはかなりかけ離れているので、直接、遮光器土偶を見て作ったとは考えにくい。この形の土偶は、全国をみても、ここ金生遺跡でしか発見されていない。

確かに一見したところでは「タコ」を思い浮かべはしますが、これが口を見て(上半身の無い)頭部と見るとは…。むしろ頭部が無いと見ることもできるような気もしないではないなと。とまれ、他では見つかっていないレアもの中のレアだったのですな、中空土偶は。

 

 

ところで、資料館には金生遺跡に限らず近在の遺跡から発掘された数々の土偶もまた展示されてましたですが、ご存知のように土偶は祭祀で用いられる都度壊されて遺棄されるとも言われておりますので、なかなか原型をとどめてはおあらないのですな。そんな中で、こちらはもしかして祭祀用というよりは愛玩用と思える土偶も展示されておりましたよ。

 

 

実物は高さ5.3cmという小さなもので、「ちびーなす」という愛称があるという。なんでも「縄文ドキドキ総選挙」という人気投票があって(と言って知ったばかりですが)、その2021年度投票において「ちびーなす」は堂々10位に入っているとは、実は土偶好きにはよおく知られた存在なのかもしれません。なるほどなかなかの愛くるしさがありますなあ。

 

ともあれ土器に続いて土偶でも、縄文の人たちの豊かな意匠には目が離せないところがあるなあと思ったものでありますよ。