鎌倉に向かう新田義貞軍が分倍河原の戦いを制して多摩川を渡河した関戸を望むあたり、マイルストーンのように立っている表示には「海から33K」と書かれてありました。このあたりの河原のようすはご覧のとおりですけれど、同じ多摩川でも、「これはいったいどこいらであるか…?」と思ってみていたのが、映画『レンタネコ』なのでありましたよ。

 

 

フライヤーに見る多摩川はかなり幅広になっていて、(映画で見ている分かるのですが)下流方向に向けて大きく左にカーブしているのですよね。「多摩川でこんなに大曲りすることがあったかいね」と思ってしまったのも、多摩住まいの狭い多摩川観によるものであったようで。地図でみればなるほど、東海道線や京急線、そして第一京浜が跨ぎ越すあたりの多摩川の湾曲は見事(?!)なものだったのですなあ。「日本のローレライ」のようでは?…と言っては、もちろん言い過ぎでしょうけれど(笑)。

 

ともあれ、そんな多摩川下流域の土手でリヤカーを引いているのは、レンタネコ屋さん。この稼業で生業が立つのかどうかといったあたり、作品の中でもあれこれの話はありますが、どれもみなそれぞれに胡散臭い(といって犯罪色があるとかいうことではない)わけですけれど、まあ、『バーバー吉野』の、そして『かもめ食堂』の荻上直子監督作品ですのでね、雰囲気をつかむことで良しとしましょうか。

 

ところで、このレンタネコ屋さん、なかなかに炯眼の持ち主でありまして、「ネコを欲していそうな人」、そして「ネコを大事にしてくれそうな人」を見定める力がありそうです。ですので、わんさか客が寄ってくるというよりは、(上のフライヤーにあるように)多摩川の土手を流していて、そこに佇む人、すれ違う人の中から「ネコ、求む」の信号をキャッチするのでもあるようで。

 

レンタルを受ける人は、例えば長らく飼っていた愛猫に先立たれてロス状態ながら新しい友を迎えるには最後まで世話をできるか、自分の寿命が分からないといったふうなおばあさんであったり、はたまた予てネコ好きで飼いたいと思いながらも、奥さんが犬派で却下されてきたものの、単身赴任の一人住まいをこのときとばかりに考えている中年男性であったり。レンタネコを可愛がってくれるという点で条件に適わないことはないわけで、映画の中のエピソードとしては契約が成立しないことはないのですよね。

 

ですが、現実には(ネコに限らずですけれど)ペットを持て余してしまうような人も数多いることは、よく知られておりますね。本来的には日本にいない種類の動物を飼って手にあまり、離してしまうとか。いろいろと深刻な問題含みだったりもするところです。

 

さはさりながら一方で、動物を飼ってみたいと考えているペット・ビギナーも間違いなく存在しておりましょう。動物のレンタル業という商売があるのかどうかは分かりませんけれど、売りっぱなし(といっては失礼ながら)になるペット・ショップよりもレンタルの方がビギナーのお試しにはうってつけかもれしんなあと思ったり。思い立ったときには、都合のいい面にしか目が向いていないところが、実際に飼ってみると(当然にして生き物であるだけに)何かと大変なことがありましょうしね。そのあたりにまで気が回っていないとしても、レンタルならば取返しがつきましょうから。

 

アニマルセラピーという言葉もあり、ヒトに対して一定の効能もあるとして、生き物を飼うにあたって「お試し」とは不穏当なことなのかもしれませんですが、それは飼われる側の動物との相性とかいうこと以上に、飼う側の覚悟はお試しされねば、動物の方に迷惑でもありましょうしね。個人的には子供のころにカブトムシと金魚くらいしか飼ったことのない者がとやかく言えたことではありませんですが、映画を見ながらそんなことを考えたものなのでありました。