アメリカの犯罪学者が導き出した「不正のトライアングル」のことは、以前にも触れたことがありましたですね。

人が不正な行為をするのは3つの要素(トライアングル)が揃ったときというものです。

 

で、その要素とは「動機」、「機会」、「正当化」ですけれど、

例えば「今、お金が必要」という「動機」、「あそこにお金があるのに誰も見ていない」という「機会」があったとして、

この二つの要素だけでも盗難のという犯罪(不正行為)は起こりえるものの、これに「正当化」が加わると

もはや不可避的ということでしょうかね。「盗むのではなくして、いっとき借りるだけ」といった具合に。

 

人には社会通念や道義を思うところがありますから、動機と機会があっても常に不正行為だらけにはなりませんが、

この「正当化」というのが実にやっかいなところではなかろうかと。

 

Wikipediaでは「正当化」を「働いた不正行為に対し、自らを納得させる身勝手な理由付け」としているように

身勝手でもなんでも取り敢えず「これでいいのだ」という思い込みがあるということ、いやはやです。

久しぶりに映画館に出向きましたけれど、『シルクロード.com―史上最大の闇サイト―』は

そんなことを思い出させる映画でありましたよ。

 

 

頭のいい人の陥りやすい陥穽なのでしょうか、「自分にはこういうことができる」と、これが「動機」でしょうかね。

誰にも裏を探られない完全無欠のサイトを自分なら構築できる。「どうよ!」てなもんですね。

 

すでに技術的な側面は考えてあるようですから、PCがありさえすれば「機会」としていつでもOKの状態。

そして、立ち上げる通販サイトで取り扱うものが違法薬物の類ではあるものの、

国の縛りから解き放たれんがための「これは革命なのだ」、「これによって世界は変わる」という考えが

主人公にとっての「正当化」なのでありましょう。

 

ですが、極めて平凡な人間として考える限り、これが主人公の身勝手以外のなにものでもないとしか思えない。

その点だけでも、すでにいささかうんざり気味になってしまったりもするのでありました。

 

まあ、映画の流れとしては、上のフライヤーにもうっすらと、

「天才サイバー犯罪者VS.アナログ捜査官」と記されておりますように、

方や指先がキーボードを走るといろんなことが出来ているという人物に対して、

方やキーボードを指一本で押していき、「実行」に至って「ジャン!」とアラーム音に警告される人物の対決、

このあまりにアプローチの違う二人の対比が見せどころ(笑いどころ?)として描いているのでしょうかね。

 

確かに職場(捜査官ですので警察)で与えられたPCに向かい、メールの設定で苦労する場面が描かれ、

これあたりをして宣伝では「アナログ」と言っているのかもしれませんですが、

この点では冨田勲とシンセサイザーのことに触れた折、自分自身のPCとの格闘を思い出したばかりですので、

身につまされるところではありますなあ。

 

ただ、それ以外ではその時代(実際の事件は2011~2013年)なりに捜査官もPCなどを

それなりに使いこなしていたようですので、宣伝文句から想像するほどの対比の妙があるとは思われず…。

もっともこのご時勢にありながら、今でもガラケー保持者(しかも万歩計とカメラくらいしか使わない)である者の

思いですので、そのようにご想像くださいまし。

 

ともあれ、世の中の出来事にも疎いので実際の事件自体を知らなかったくらいですから、

「ほう、こんなことが実際にあったのか」と、冒頭のような思い巡らしにつながったのではありますけれど。