「不正のトライアングル」という言葉がありますですねえ。

「動機」、「機会」、そして「正当化」という3つの要素が揃い踏みとなったときに不正は起こる、

とまあ、そういうことでありまして、このことは以前にもドラマ「鉄の骨」を見た時に引き合いに出して

談合に関わる人たちの中では「正当化」が盤石なのでしょうね…てなことを書きましたなあ。

 

不正といって、例えば「お金が欲しい」といった動機は比較的誰にも持ちやすいかもしれませんが、

その動機を可能にする機会があるかどうかは状況に応じて違うものの、動機が強ければ

あれこれ考えて克服する道を探し出してしまうかも。

 

そんなときに「正当化」というのはその行為に自身納得できてしまうかどうかということで、

気持ちの持ちようであるとはいえ、普通はこれが簡単ではないから3要素が揃わない…ということも

あろうかと思うところです。

 

さりながら、この「正当化」に無頓着な人たちいるようなのですよね。

何の惑いもなく、自らの行為は正当であると思い込んでいる人たち。

傍から多少突っ込まれても、相手が何を言っているのか、

およそピンとこないくらいに自分の行為は間違っていないと信じて疑わない人たち、

映画「はりぼて」に出てくる市議会議員の人たちのことですなあ。

 

 

といってこの映画、作りものではないドキュメンタリーですから、

登場人物たちは本当の富山市議会議員なのですよね。

およそ民意を聴くこともなく議員報酬をお手盛りに増額する条例を可決した議員たち、

どうしてそんなにお金が足りないのか、疑問を感じた富山の地方局チューリップテレビは取材を開始、

資料の情報開示請求を行うなどして、報酬とは別に議員が使用可能な政務活動費の支出を調べていくと、

なんとも杜撰な処理の結果、多くの議員がそれぞれに目的外支出(もはや横領ですかね)をしていたと…。

 

次々と記者会見で頭を下げる議員の姿が映し出されると、見ている方がもはや開いた口が塞がらない。

半年の間に14人の議員が辞職することになった…とは、本当の話なのですなあ。

 

冒頭に触れた「正当化」という点では、辞職議員のそれぞれが一様に

自分は市と市民のために一所懸命に働いておる、そうした活動をするにはいろいろと物入りである、

結果的には市民のためになることをしているのだから、政務活動費の目的外使用は

大きく見れば目的に適っていることである、とまあ、何の疑いもんかくそんなふうに考えていたのでしょう。

 

だからこそ、隠蔽、偽装といったことには細かく注意を払うこともなく、

調べれば簡単に事実と相違していると分かることを放置していたのではなかろうかと。

 

「本当にこの会場で市政報告会を行ったのでしょうか?」…施設に予約した記録もない。

「この出張で訪ねた先はどこだったのでしょうか?」…行先では全く関知していない。

おそらくは調べられるとさえ、考えてもいなかったということですかね。

 

悪だくみであれば、周到な裏工作をしようところかと思いますが、そんな気もさらさら無い。

悪意という以上に感覚が麻痺しているのでしょうなあ。

 

そして、これを一事が万事とまでは言わないものの、

概して同様の感覚麻痺は政治と取り巻く状況のなかに、

さらにはその政治を取り巻く官僚組織のなかに根付いてしまっている、

そんな気もしてくるわけでありますよ。何も富山市議会だけの話ではなかろうと。

 

富山市の人たちは大いに憤りを感じたところでしょうけれど、

傍で見ている側としてはあまりのことに開いた口がふさがらない。

ただただ、失笑してしまうような。もちろん、失笑では済まないのですけれども…。