先日YMOの音楽を聴いていて、というよりはシンセサイザーの音を聴いていて思い出したのが

冨田勲なのでありました。まだまだ、ピコピコ音しか無いような時代に早くもクラシックの曲を

シンセサイザーでもっていかにもな形にアレンジして聴かせてくれたわけですから。

 

取り敢えず『惑星』は何度も聴いておりますので、例によって近所の図書館を探したところ、

ありました、ありました!幸いにも初めてのアルバムになるドビュッシーの『月の光』、

タイトル曲のほか、ドビュッシーのさまざまな曲を集めたものでありますよ。

 

 

手に取って、初発のものとはずいぶんと印象が異なっておりますな。

アンリ・ルソーの絵が使われているとは、これだけを見ると、かなりポップな印象がしますけれど、

再発にあたっては結構手が加わっているのか、音響空間のサラウンド的なところが際立つようになったような。

一曲目の始まりから早速に、そんなふうに感じたものでありました。

 

ライナーノーツには、米国から届いたシンセサイザー(というより機械の山)を前にして、

結線段階から苦労の連続であったことが、ご本人の言葉で記されておりましたが、

全く予備知識の無い人が初めて手にしたPCを使えるようにするまでの苦労のようなものでしょうか。

 

個人的には、インターネット回線、といってダイヤルアップ接続の当時ですので、

「ピ~ひょろろろろ~」なんつう音が出て繋がるまで、何度も何度も電子メール接続の設定に

散々苦労したことが思い出されたりしたものです。

 

そんなことはともかくとして冨田勲のシンセサイザー編曲版ドビュッシーですけれど、

後に冨田がホルストの『惑星』を手掛けるのもむべなるかな、コズミック・トーンとでもいいましょうか、

やおらドビュッシーの世界が宇宙に飛び出したようでありますね。

 

言わずもがなですが、もとより作曲家である冨田にすると、楽器用法の点において

多彩な音色を生み出す可能性に満ちた楽器としてシンセサイザーは映ったのでもありましょうなあ。

その可能性を探る中では、あれこれいろいろ、遊び心を試しているふうでもあります。

やはりライナーノーツで本人の曰く「なんとかモーグにしゃべらせようとも努力した」と。

 

「モーグ」というシンセサイザー、つまりは機械にしゃべらせよう、歌を歌わせようという。

今では「初音ミク」などのボーカロイドはもはや新しいものではありませんけれど、

この『月の光』が発売された1974年当時はまだまだ夢の世界でもあったろうかと思うところです。

 

実際、ここではまだ「パピプペ親父」(これも冨田本人の曰く)を登場させるのが精一杯だったのかも。

パ行しか発音させられなかったということですが、これはこれでキャラ立ちがいいせいか、

パピプペ親父は『惑星』でも大活躍ですし、この試行錯誤があってこそ『展覧会の絵』では

猫とひよこの追いかけっこを作り出すことができたのでもありましょうかね。

 

と、こうしたシンセサイザー奏者としての冨田勲ばかりを追っていますと、

遊び心の方にばかり目が向いてしまったりもするわけですが、その実、

冨田は歴とした作曲家なのですから、ちとそちらの方面も改めて聴いておこうと

ついでにCDをもう一枚、借り出していたのでありましたよ。

 

 

『新日本紀行 冨田勲の音楽』という、作曲家冨田勲の作品集でありまして、

タイトル曲であるNHK『新日本紀行』のテーマ曲はもとより、大河ドラマのオープニング・テーマも

いくつか手掛けておりまして、そも大河ドラマ第1作『花の生涯』は冨田の手になる曲だったのですなあ。

個人的に一番印象深いのは『徳川家康』(滝田栄が家康でした)でしょうか。深みのあるいい曲です。

 

そして、忘れてならないのが手塚アニメの『ジャングル大帝』ですな。

収録されているのはオーケストラによるインストゥルメンタル版ですけれど、

聴くたびに、♪あ~(↗)あ~(↘)ひぃびぃけ、こだまぁ~、と朗々と歌い上げたくなってしまいます(笑)。

そうそう、『リボンの騎士』も懐かしいですね。ピッコロのコミカルさは後の数々のシンセ編曲の遊び心に

通ずるものがあるような気がしてきましたですよ。

 

ですが、やっぱり『新日本紀行』のテーマがいいですかねえ。

この間ちと触れたように、旅(情報)番組では無い紀行番組として、

日本の原風景をたどるような映像になんともしっくりくるような。

 

それほどにもの悲しく寂しい曲でもないに日本人であればどうしても懐かしさを感じてしまう、

そんな曲ではなかろうかと思うところです。ちなみにこちらのライナーノーツに曰く、

このテーマの曲想は冨田の祖父母が隠居生活をしていた茨城県常陸太田市小目町から影響を受けたそうな。

今では近くを常磐自動車道が通っていて、景色はずいぶんと変わったでしょうけれど、

メロディーが想起させるのはいつも日本の原風景的なるものかもしれません。

とまれ、冨田音楽の多彩さにたっぷり触れることができましたですよ。