グランマ・モーゼスの回顧展を見てきた世田谷美術館では、

「ART / MUSIC わたしたちの創作は音楽とともにある」と題したコレクション展も開催中でありましたよ。

 

 

「音楽と美術をテーマに、新たな視点で収蔵品をご紹介」ということで、

かつて群馬県立近代美術館で見た「美術と音楽」展とはまた少々趣きを異にして、

どちらかといえば間接的に音楽との関わりを感じさせるような作品を所蔵品から蔵出しといったようす。

 

もっともフライヤーにある写真は直接的に音楽との関わりを示唆しておりまして、

アトリエでヴァイオリンを構える画家アンリ・ルソーですが、ルソーは日曜画家であるばかりではなかったのですな。

自宅には「デッサン、絵画、ならびに音楽、自宅教授、授業料低廉」という看板を掲げていたそうな。

 

自らの作曲作品の楽譜を自費出版したこともあるということでして、参考作として

ヴァイオリンまたはマンドリンのためのワルツ「クレマンス」の楽譜が展示されておりましたですよ。

 

タイトルの「クレマンス」とは愛妻の名を曲名にしたものですけれど、

全体がハ長調で出来ているというのは意図的なのか、日曜作曲家である故か。

普通はサビの部分を作って変化をさせるとか、何かしらしそうなものでなかろうかと思ったりするところです。

 

 

ちなみに、上の写真の左奥に写り込んでいる作品はこの「田舎の結婚式」(1905年)であるようで。

いわゆる集団肖像画ながら、全くもって平板な描きようは正しくルソーの面目躍如(?!)たるところかと。

 

ですが、この味わいを感じるのは後世だからこそなのかもでして、

この作品は1905年のアンデパンダン展に出品されたものの、翌年に撮られた写真に写っているということは

売れていない…。生活はなかなかに大変だったのではと思いますけれど、我が道を行くルソーらしさが

写真からも見てとれようかと思うところです。

 

さりながら、今ではこの「田舎の結婚式」はオルセー美術館に所蔵されているのですし、

他の作品も世界の名だたる美術館のコレクションに入っている。わからないものですなあ。

 

ということで、オルセー所蔵作が世田谷美術館のコレクション展に登場するわけもないですが、

ここでは同館所蔵の「フリュマンス・ビッシュの肖像」(1893年頃)が展示されておりました。

 

解説に曰く、「愛妻クレマンス亡きあと、実はルソーはある女性に心を寄せていた」ものの、

その女性はビッシュという男性と結婚してしまうも、やがてビッシュが亡くなり夫人は悲嘆にくれることに。

これを慰めんがために、夫フリュマンスの肖像を描いたのであると。なんとも健気といいますか…。

 

とまれ、グランマ・モーゼスやアンリ・ルソーの作品を目にしますと、

諏訪湖畔という素敵な環境で素朴派の絵画を堪能できるハーモ美術館を思い出しますな。

久しぶりに再訪してみたくなるところですけれど、ご時勢的にはどうも叶わぬところです。

 

暖かくなるころには状況も変わってきましょうか。

きーんと冷えた中よりも、穏やかにほんわり暖かい時期の方がルソーと向き合うのに

程よい環境かとも思いますし。