先に「アートブック」の紹介があった武蔵野美術大学美術館の展示には、

「アートブック」の生みの親のひとり、クリストフ・ルックヘバーレによる

本の形態をとらない別の作品群の展示もあったのですな。実にポップな印象です。

 

 

壁面を飾っているひとつひとつは独立した版画作品なのでしょうけれど、

この一角だけを見ても同じ作品がランダムに登場しているようすが分かりましょうか。

ルックヘバーレの「制作姿勢に通底するものは、反復、あるいは複製への関心」なのだということで。

やはり印刷物たる本作りとも関わる考え方があるのでしょうね。

作家のディレクションによる本展示空間には、同じ版から刷られた版画作品が2点、3点と並びます。これらの作品には、どちらかがオリジナルであり、どちらかがコピーであるといったヒエラルキーは発生しません。作品のもつ真正性や唯一性といった制度を揺さぶりながら、その視覚的効果を鑑賞者とともに楽しむかのような軽やかな態度にこそ、彼の制作のひとつの魅力があるといえます。

微妙にどこかしらが異なるような、どれもがオリジナルというのではない一方で、

やはりどれもがオリジナルという思考の混乱もまた楽しからずやでありますね。

同じものと分かっていても、場所を変えて展示されたものを見ているとどこかしら違っているのでは?と

ついつい勘ぐってしまうといいますか。

 

ただ、少しでも見る場所を移動し、見る時も微妙に後先が生じる中では、

見た印象という点で(確かに同じものながら)異なるものがあったりするのは、

美術鑑賞もまた時間芸術としての受け止め方があろうとは、毎度考えているところと合致したりするわけで。

 

とまれ、そんなルックヘバーレの版画作品ですけれど、

またひとつ、美術館入口外の脇にある展示室に入りますと、思わず「おお!」と。

こんなふうだったのでありますよ。

 

 

版画作品こそが展示物であろうところながら、目を引くのは何と言っても壁紙ですね。

実に、実にカラフルです。

 

 

 

こちらの場合は、あまり個々に違いを見出すという見方にはならずに、

壁紙らしい一定モチーフの反復使用にリズムを感じるといったふうであろうかと。

それだけに一層、中心であるはずの版画作品にフォーカスするというよりは、

展示室全体そのものに楽しみを見出す感じでありましょうか。

 

ついつい展示室の係の方に「この壁紙全部、職員の方が貼ったんですか?大変でしたね」と語りかければ、

苦笑が返ってきましたですよ。「(展覧会の)費用としても、この壁紙、高かったでしょうねえ」と余計なことを。

ではありますが、ただただ訪ねて見る側にとって、この美術館が入場無料であることに何だか申し訳なさも。

とてもありがたいことなのですけれどね。

 

てなことで、「絵画性と複製性」への思い巡らしを促すムサビ美術館の展示、

まあ、底の浅い受け止め方ばかりではありますが、堪能してきたのでありました。