青森のお話も、長野県富士見町のお話の続きもあるところながら、
ちょいと前に出かけて放っておくには忍びないので、武蔵野美術大学美術館のお話を。
ここもまた展示替えの度に出向いているような気がしておりますけれど、
展示のひとつは(10/31で会期終了になってますが)「川口起美雄——I’ll be your mirror」展、
幻想絵画という言葉を見かけて「なるほどな」と思いましたですよ。
シュルレアリスム。展覧会で、この言葉は使われておりませんでしたですが、
見て回りながら思い浮かんだのは、どうしても「シュルレアリスム」なのですなあ。
その印象を少しでも捕まえていただけるかもと、フライヤーの裏面をご覧願うといたしますか。
上に見える二本の塔の絵。「風の塔」というタイトルが付いておりましたけれど、
なにか懐かしいような、かといって見たことのないような、
近代建築遺産のようなものであるか、ヨーロッパの風景にあるようなものであるか…とか、
その空虚感(廃墟感でもありますが、それだけでもない)や静謐さは岡鹿之助作品を思い浮かべたりも。
岡鹿之助作品もまたシュルレアリスムを感じさせはするものの、むしろ幻想的な世界というならば、
ここで見られた作品群もまた、なるほど幻想絵画というのが当たっているのかもしれません。
展示室に付随するビデオコーナーで作者が語っているようすを映し出しておりますですが、
その中で印象的であったのは「不一致の一致」ということでありましょうかね。
シュルレアリスムの中で大きな役割を担っているのがオートマティスムであるとすると、
そも違和感のある事物を組み合わせて幻想世界というまとまりを紡ぎ出す「不一致の一致」は
やはりシュルレアリスムと言うには当たらない作為性、意図が感じられるところではあります。
さりながら、同様に不一致なものを敢えて配置して見る者を煙に巻くことに腐心したようなルネ・マグリットが、
代表的なシュルレアリスムの作家のひとりとされるというあたりに、「おや?」と思ったところもあるわけで。
素材の配置と言う点ではマグリットを感じさせ、一方で全体の雰囲気からはデルヴォーが感じられる。
はたしてシュルレアリスムとはなかなかに一筋縄ではいかないもので、そうであったとしても、
今回展で見たところがシュルレアリスムであるかないかを考えることはさほどに意味あることでは
ないのでありましょう。見る側に刺激(考える楽しみ?)を与えてくれるというだけで十分でもあろうかと。
ちと手持ち時間の関係で、そそくさと見て回ってしまったものではありましたですが、
頭の中でさまざまに思いを巡らす(時に勝手な物語を作り出してしまいそうにもなる)作品との遭遇は
久しぶりでしたので、もそっとそこにある絵画と向き合って時間を過ごすという、時間芸術的な絵画体験を
大事にしたいものだと、考えた次第なのでありました。