いわゆる「時代もの」と思しき映画を2本ばかり見たものでして。

ひとつは「決算!忠臣蔵」、季節ものともなっている忠臣蔵を見るにはちと時季外れではありますが。

 

 

一昨年の暮れに港区歴史フォーラム「忠臣蔵」というのを聴きに出かけたですが、

その一部がこの映画の番宣(?)になっていて、直後には見ようかなと思っていたもののそのままに。

ようやっと見てみたわけですが、ここまでコメディーになっていたとは思いもよらず。

堤真一演じる大石内蔵助が、先に読んだ『いとまの雪』に描かれた深謀遠慮からはほど遠く、

何ごとにつけ「めんどくせぇなあ」感が漂うのは、昨今の堤真一に付いたキャラ・イメージでもありましょうか。

 

ともあれ、新潮新書の一冊「『忠臣蔵』の決算書」を材料にストーリーを作り出しているものですけれど、

まあ、流れとして押さえるべきところは押さえつつも、改易された藩の浪士たちが仇討ち費用の工面に

四苦八苦するさまが描かれておりますよ。もっとも、大石以外はおよそ使うことばかりなのですが。

 

結果的には討ち入りシーンが直接的に描かれない「忠臣蔵」というのは画期的ではと思うところながら、

笑いでくるむ時代もの作品というのも、昨今のひとつのありようでしょうかね。

「超高速!参勤交代」とか、「殿、利息でござる!」とか、「清須会議」なども同傾向でしょうか。

 

日本映画の黎明期にフィクションといえば時代劇と決まっていたところがありますけれど、

それが戦後にGHQのダメ出しがあって作られなくなったことと同時に、生活のあれこれの洋風化が進んで

時代劇=古臭いといったふうにもなっていったところが、だんだんと盛り返しつつはあるようですなあ。

 

どんな映画を作るかというときのバリエーションのひとつとしてあるようになるのは良いですが、

入り口はコメディーであっても、本当のところはどう?と歴史を考えることに繋がればなお良いような。

 

ま、「決算!忠臣蔵」をコメディーと言いつつ、「仮名手本忠臣蔵」もまた作り物ではありますし、

本当の赤穂事件といって確かなところとはっきりしないことが残っていることもありましょうから、

それを想像で埋めてはいけないとは言い切れないところですが、ちょっと見で「こういう話なんだあ」と

受け止めて終わることだけはないといいがなあと、老婆心ながら思ったりもするところです。

 

と、ここまでのところで「時代もの」と言ったり「時代劇」と言ったり、

用語がぶれているようにも見えましょうけれど、これが実は悩ましいところでありまして。

 

いわゆる「時代劇」なるものは、基本的にチャンバラを見せどころにしたと思えるのですなあ。

確かに大がかりな合戦シーンが出てくれば、それもまあ、チャンバラだと言えないことはありませんが、

どうもイメージに合わない。やっぱり、かつてのドラマ「水戸黄門」などでラスト15分くらいになると

決まって登場する剣戟シーン、これがあってこその時代劇と思えるわけです。

 

ここに掛かる時間の長さというよりも、見せ場としての意味合いといいますか、

ですので、藤沢周平原作の映画などの、長いわけでも派手なわけでもない、

しかし激しい剣戟の場面はやはり見せ場であって、時代劇というにふさわしいように思うところです。

 

そんな区分け(ひとえに個人的印象ですが)からすると、2本見たともう一つの「十三人の刺客」の方が

「時代もの」というべきか、「時代劇」といういべきか。個人的結論から言えば「時代劇」であろうとは思いますが…。

 

 

見せ場は十三人の刺客が明石藩の殿様の命を狙い、大名行列の一行と激突するところ。

見ようによっては、これはもう合戦シーンであるともいえるわけですね。

相手の数は、本来作では53人だったのが、このリメイク作では200人とも言われる多勢に無勢状態。

倒しても倒しても、まだまだ敵がざくざく登場するあたり、こりゃあゲーム感覚なのではなかろうかとも。

 

何しろ多勢が相手ですので、有象無象は爆弾やらなんやらでささっと数を減らしていくわけですが、

その後に出てくるのは剣戟シーン。といってもかなりの乱闘ですので、剣戟というには違和感もあるものの、

見ていてはたと刺客一行の中で最年長の役を演じていた松方弘樹の剣さばきを見ていて、

「ああ、これは時代劇だ!」と思い至ったような次第でありまして。

 

先にも触れましたように、「時代劇」は見せ場に剣戟ありとしたときに、

その剣戟シーンはとても重要なポイントなわけですね。

 

本当に刀を使うとき(今では居合くらいしかないわけで、武器として使用があってよいはずもないですが)、

どんな形がそれらしいのか、知る由もないところながら、映像の中で「見せる」動きとして剣さばき、

これは、若い配役陣はもとより役所広司も含めて、松方弘樹の「ぴたぴたと決まる」ような動きは

他の誰にも無いものだったのでありますよ。

 

傾向として、時代ものを取り上げてコメディーを盛り込む風潮が悪いわけではありませんし、

またゲーム的な展開を持ち込めば、むしろ馴染む年齢層も多くなってきているのでしょうけれど、

その一方で「時代劇」の見せ場である剣戟の見せ方の妙、これはかつて時代劇が絶大な人気を誇った時代に

俳優たちも体に沁み込ませたものでしょうけれど、その継承が危ぶまれているのかも…と思ったりしたものです。

はて、こののち「時代劇」はどんな方向に向かうのでありましょうかね…。