お隣の市の図書館で、シャルル・バルバラ幻想作品集『蝶を飼う男』という一冊を借りてきたのですね。
蝶が苦手という方は別として、これ、なかなかに素敵な装丁ではないかと思ったりもしつつ。
周辺部に焦げ焦げが見えるあたり、何とはなし古書的なありがたみもありますしねえ。
これはひとえにシャルル・バルバラが長らく忘れられていて掘り起こされた作家であることと
繋がって考えたりしてしまうところでもあろうかと。
1817年生まれですので、アレクサンドル・デュマやヴィクトル・ユーゴ―よりは少し遅く、
ゾラやモーパッサンよりいささか早い時期ということになりますですね。
十分、古典的なところに位置しておりましょう。
実は以前(といって、検索すればすぐに2014年の7月だったと分かるわけですが)、
バルバラ作の『赤い橋の殺人』を読んだことがありまして、
なにやらドストエフスキーの『罪と罰』を彷彿させるところがあるようなとか、
ミステリー確立前夜の雰囲気を湛えているようなとか、そんなことを書いていたようで。
こちらの作品集にも、たとえば『ロマンゾフ』という謎の贋金作りが出てくる話などは
ミステリーならぬノワールの香り。はたまた、さまざまな発明品の数々に埋もれて暮らす人物を描いた
『ウィテイントン少佐』という一編は後のSFを想像させるところがありますですね。
ちなみにフランスでジュール・ヴェルヌが生まれるのはバルバラよりも十数年後になります。
さりながら作品集全体の雰囲気を表すのに「幻想」という言葉を持ってきたのは
まあ、頷けるところであろうかと。取り分け標題作の『蝶を飼う男』、
さして広くもないであろうアパルトマンでひとり、たくさんの蝶(や蝉やコオロギやカエルや…)と暮らすさまは
安直かもしれませんが、幻想的な想像を頭の中に描いたりするところですし。
それにしても、コントとも言える最後の『聾者たち』を除いてみな、
社会とそりが合わない人物たちをりが描いておりますな。
ユーゴ―が『レ・ミゼラブル』として作り上げたような壮大な世界ではないものの、
それぞれの個がそれぞれに生きて、奮闘し、落胆し、ある種の境地に到達し…みたいな姿。
大革命後のフランスではこんなふうに市井の「個」を見詰めるようになっていたのですかね。
(と言いつつ、小説の登場人物はやはり変わり者ばかりではありますが)
作者のシャルル・バルバラは、若い頃から詩人のボードレールや写真家のナダールらと交友し、
画家クールベなども交えたグループ「ボエーム」のメンバーであったとか。
プッチーニがオペラに仕立てた「ラ・ボエーム」の原作にはバルバラも描き込まれているそうでありますよ。
つまりはボヘミアン的な日々を送っていたりしたのでしょうけれど、
そうしたところから、この作品集に描かれているような市井に埋もれた人々に
バルバラは視線を注ぐことにもなったのかもしれませんですね。