ということで、くにたちアートビエンナーレ2018の作品を巡って、
東京・国立市のさくら通り沿いをうろうろしていたわけですが、
ここでうろうろと言いますのも、通り沿いに据え置かれた作品を前に
右から見たり左から見たり、近寄ったり遠目で見たり…そんなことをしている人は
他に誰もいないわけでして。
通りすがる人々は作品があることも気付かず通り過ぎていくふうなのは、
もしかすると近所の人々にとってはすっかり風景に馴染んでしまっているかでもありましょうか。
まあ、こうしたのが並木の間に置かれてあって、「これが作品です」と言われても…かも。
ちなみに「地中からの贈りモノ」というこの作品、石に入ったひび割れは地中に眠るエネルギーを、
地上にいて見えるようにしたものと言えましょうけれど、いささか物騒な気がしてしまいます。
一方、そんなタイトルを目にしなければ「ベンチにしては高すぎる…」てなふうにも見られるかもですね。
続いてのステンレスによる造形作品がこちら。
一筋縄でいかないのは見る方向によってその姿を変えることですな。
ところでこの作品のタイトルは?となれば、これがシンプルに「象」とひと言。
見方によっては印象の変わる造形だけに「像」といわれた方がそれらしい気もするところながら、
「象」と言われればそんなふうにも見えてきてしまうものですなあ。
たっぷりした丸いお尻の側から回り込んでみますと、「ああ、鼻があった!」と。
印象派の画家たちがこぞって描いたエトルタの断崖のようでもありますが、
これを「象の鼻」と呼んだのはモーパッサンであったとか…。
さてさて「抽象、来たぁ~!」という作品の登場。
タイトルの「EARTH VIBRATION 天使の梯子」も謎めいていて。
ただ、前半で見た作品にも同傾向が見られますですが、
こうした抽象的な造形には何かと宗教的だったり、
大地、宇宙、太古といったにつながるイメージを込めているようなのは興味深い点であるような。
「なに?これ…」的な感じはこちらにもありますけれど、こちらは「たけくらべ」と。
ついうっかり「たけ」=「竹」と思い浮かべてしまったのは、見た目の植物っぽさからでしょうか。
なんだかタラの芽とか、そんな印象で受け止めてしまいまして(笑)。
ですが、「たけくらべ」は言わずと知れた「丈比べ」でしょうから、
高さの違う4つのにょきにょきは家族の表れとなりましょう。
近くには集合住宅が多いことからも、素直にこのイメージで見られているかもです。
さて、いよいよこちらが最後の作品、またのぞき窓系の作りでありますな。
タイトルは「花と空と太陽と」、鋼に穿った穴の部分は確かに花とも太陽とも見えるかも。
ただ近づいて覗きにかかりますと、工業機械らしさもやおら浮上してくるような。
とてつもなく堅い何かを切り裂く刃のようにも見えるところかと。
とまれ、そんな穏やかでなさとは裏腹なタイトル付けの下、
作者としては四季折々に変化する風景を楽しんでもらいたいとの意図であるようす。
さりながら、覗いて見えてくるのはコロナ禍の影響か、閉店してまったファミレス跡なのですね。
やはり作者の意図が設置場所に反映されているのかどうか…。
ところで10点の作品を見て来ましたですが、くにたちアートビエンナーレ2018の入賞作品は
ほとんど全て今回紹介しました方に含まれておりましたなあ。
ちなみに大賞は「EARTH VIBRATION 天使の梯子」で、
準大賞が「神像(道ゆく人に幸福を」(この作品は前回紹介)、
そして優秀賞に「花と空と太陽と」、「たけくらべ」、「象」の3点といった結果ですが、
見事に抽象系優位な感じがしますですねえ。
講評が見当たりませんので、審査された方々の意図は奈辺にありやと思うところながら、
ともあれ、もしもオーディエンス賞を出すとしたら、皆さんはどの作品に一票を投じましょうか。
こう問いかけること自体、個人的な感想が「入賞作品、これ?」と知れましょうけれど、
置かれてあるそのものとすれば「象」、遊び心で言えば「太陽の雫」(これも前回紹介)かなと。
ま、そんなふうにマイ・セレクションを考えるのも一興ではありましょうねえ。