富士山カレーのことを書いたところで葛飾北斎に触れましたので、これまた先に見てきた北斎展のお話。
緊急事態宣言でこのまま会期終了ともなってしまうかもしれませんので、思い出した時に書いておきましょう。
八王子市夢美術館の「世界が絶賛した浮世絵師 北斎」展です。
こういってはなんですが、なんともチープな展覧会タイトル、
そしてフライヤーのが像は例によって?「神奈川沖浪裏」であるか…と。
まあ、個人的には北斎にさほど詳しくもないのに言えた義理ではありませんが、
多作であった北斎の若年から晩年、そして役者絵、お化けの絵、そして風景画、
さらには西洋画の手法を試みた作品などさまざまなところを取り上げて、
北斎入門編ともいえる展示ならではのストレートなタイトルであり、フライヤーでもあるのでしょうね。
とまれ、展示をひとわたり見て回ったところで、
今回改めて目を向けたのは構図の妙というか、画面構成の妙という点でして。
北斎作品でもっとも知られている「富嶽三十六景」でも、富士山の景色ですよと思わせるシリーズ名からすれば、
さまざまな角度から秀峰富士の姿を捉えているのであるかと思えば、その実、
富士山はワンポイント・アクセントみたいな登場のさせ方をしていたりすることはよく知られておりますな。
「凱風快晴」のように直球勝負したものもありますけれど、上のフライヤーで富士の姿の何とちいさなこと。
もっともあの場所に、もしも富士が無ければ画竜点睛を欠くことにもなっていたのでしょうけれど。
なにしろ波の盛り上がりと同じリズムの中にあるわけですから。
一方、こちらも有名な「尾州不二見原」(画像は部分)、やはり富士山は遠景にとどまっておりますが、
大きな樽の円形の中でやはりアクセントになっておりますなあ。
さらには(三十六景といいつつ、追加十点があり、その最後の作品となる)「諸人登山」に至っては、
登山の人々を描いて、彼らが踏んでいる地面は富士にしても、いわゆる富士山らしい姿は見てとりようもない。
こうした作為を凝らした作品集であったわけですけれど、それがよほど北斎自身、気に入っていたのか、
後には(色刷りではないものの)「富嶽百景」まで作ってしまうのですものねえ。
折しも展覧会ではおまけ企画?として、
ジャポニスムで北斎に影響を受けたフランス人画家アンリ・リヴィエールの「エッフェル塔三十六景」から
二十数点が展示されておりますですが、エッフェル塔の用い方が相当に北斎を意識したと窺えますですね。
「エッフェル塔三十六景」は、今は無きニューオータニ美術館でも十年ほど前に見たことがありますけれど、
その時よりもさらに「ああ、北斎の影響を受けてるのだねえ」と思ったものでありますよ。
ま、富士にせよ、エッフェル塔にせよ、それぞれのフォルムがアイコン化していて、
なんだかわからないような描き方であっても、「ああ、これね」と受け止めてもらえるという前提あってこそですが。
とまあ、海外にも影響を与え、米「ライフ」誌の「この1000年で最も重要な100人」に唯一選ばれた日本人となった
北斎ですけれど、個人的には歌川広重の作品の方に心惹かれるところがありまして…とは、
あまりに北斎、北斎と言われると天邪鬼の虫が騒ぐからでもありましょう。
ただ、北斎がいたから広重がいたとは言えましょうか。
北斎人気はお江戸の当時もあったでしょうから、売り上げを仕掛ける側としては
「北斎先生のようなのをお願いします」てな話が広重に持ち込まれたりしたかもしれませんですが、
北斎コピーに甘んじてはおれないという気概が、広重の抒情性を際立たせることになったのではと思ったり。
さすれば、やはり北斎の影響下にあったとは言えましょうから、
天邪鬼、へのまがりとしても葛飾北斎を素通りすることはとてもできないところであるなと
これまた改めて思うところなのでありました。