Eテレ「100分de名著」で12月放送分の『ディスタンクシオン』に絡んで何か書こうと思いつつ、
先日吐き出すまでに時間がかかってしまいましたので、その後の放送分のことを書くのが使えぎ気味ですが、
今度は1月放送分のカール・マルクス『資本論』に絡んだお話を少々。
そも『資本論』と聞きますと、どうしても共産主義=ソ連、ひいては独裁政治、恐怖政治…てなところまで
想像してしまうところがありまして、マルクスにとっては甚だ迷惑な?話でもあろうかと思うところながら、
そうした想像から『資本論』自体を敬遠してしまいがちでもあろうかと。
なんだってそんなふうになってしまうのかと考えれば、おそらくマルクスは理想的な社会像を想像したものの、
それを実践するのが「人間」であることを甘くみていた、あるいは「人間」そのものも理想で捉えていたでしょうか。
現実的には理想とは遠く、「人間」が共産主義を実践した国のありようは皆が等しく自由でそれなりに豊かという、
目指す社会とは正反対のところに陥ってしまったような。
この実験でもって、さも社会主義が宜しくないかのように受け止められたかもしれませんけれど、
問題は実践する「人間」の側にあったように思えてならないのですなあ。
そんなふうに言いますのも、個人的には思想的社会主義(つまりはいささかも行動せず思い描くだけ)かなと
自己分析したりもするからですが、そうであればこそ、敬して遠ざけるだけでは済まない『資本論』、
ようやっとこのほどダイジェストで接することになったという次第なのですなあ。
でもって部分的にも触れてみますれば、示唆に富んだものではありませんか。
感じ入ったことのひとつとしては、「W-G-W」から「G-W-G」への転換の部分でしょうか。
「W」はドイツ語の「Wert」(価値)、「G」はやはりドイツ語の「Geld」(貨幣)でありますね。
本来的に生活する中では、物々交換が分かりやすいですけれど、
なんらか価値のあるものを別の価値あるものと取り換えることで必要を満たすわけですね。
ですが、いつもうまい具合に等価交換できるとは限りませんから、
一時的にも価値を換算した貨幣に置き換えて保有し、必要に応じてその貨幣をもって
別の価値あるものと交換するという方法は便利なシステムでもあるわけで、
ここのところまでの循環が「W-G-W」の形であるということになりましょうか。
さりながらこの循環の歯車が少々狂って、今では(マルクスの生きた時代でも同様だったのでしょう)
「G-W-G」というサイクルに陥ってしまっているようで。必要な価値ある何かを手に入れるには、
まずもって貨幣が必要だということで循環の始まりは「G」となり、結果的に手に入れる最終形もまた「G」である、
あたかも貨幣、お金が全てであるかのような。
おそらく多くの人にとって「そこまでお金の亡者にはなっていない」と思うものと想像しますが、
ネットオークションのような取引形態がごく普通に利用されるようになりますと、
手元にある何か価値ある物(W)が「これはいくらで売れるかなあ」と「G」に置き換えることを考えてしまったり。
これ自体がすでにして「G-W-G」の循環に陥っていることになりはしないかと思い付きますと、
「うむう…」と考え込んでもしまうのですよね。
なにくれとなく「商品」(貨幣を生む物)になると考える、番組の紹介ページで見かけた表現を使えば
「私たちがいかに「商品」というものに翻弄されているか」ということになるわけでして。
もひとつ刺激的な観点としては、「イノベーション」ということに対する批判的な視点でありましょうか。
とにかく新しいことに結びつき、しかも意味合いとしてはより良い、肯定的に受け止められがちな言葉ですけれど、
これが進めば働き方としてさも楽になるかのように思ってしまうところながら、実際は全く違うと。
資本主義下、企業間の競争が激化する中でのイノベーションは、効率化を求めるあまり過度な分業化を推し進めてしまう。その結果、本来豊かな労働を「構想」と「実行」に分離、創造的な「構想」のみを資本家が奪い、単純労働のみを労働者に押し付けるといった過酷な状況が構造的に生じてしまうという。
番組HPから部分引用させてもらいますと、このとおりです。
世の中的には、AIの進化が「ヒト」の仕事を代替する、場合によっては楽になるとも、
また裏返せば失業の憂き目にあうとも、両様に考えられるわけですが、
いずれでなくても、いわゆる働き甲斐というものが無い仕事をせざるを得ない状況もあり得るような。
これまで仕事をする上で(イノベーションと言えば大袈裟になりますけれど)常々、
効率性(それ一本やりではありませんが)の向上を良しとするような考え方をしてきましたですが、
改めて気付いてみれば、その考えの中には非正規雇用を助長したりもするような要素を孕んでいたのだなと、
今さらながらに考えてもみたり…。
そんなこんなでこれまでの考え方を大きく揺さぶられる部分に満ちた『資本論』…ではありますが、
原典にあたるにはやはり敷居が高いなあと。
まあ、この番組で取り上げられるのはおよそそうした本ばかりなのですけれど。