中学生の頃にビートルズは聴き始めたですが、
その後にいわゆるハードロックやヘヴィメタルへと聴き広げていかなったのは
別方向のお気に入りがS&Gだったからでもありましょうか。
しかし、S&Gといって、それがサイモンとガーファンクルのことであると分かるには
すでに一定年齢以上の方かもしれませんですね。そもサイモン?ガーファンクル?…誰?かもですし。
映画「卒業」にたくさん曲が使われていたでしょう、「サウンドオブサイレンス」とか、「スカボローフェア」とか。
こんなふうに言えば、あるいは曲だけには知っているとなるかもしれませんですね。
とまれ、そんな?サイモンとガーファンクルの歌声が流れて「ああ!」と懐かしく思い出すことになったのが
映画「さよなら、僕のマンハッタン」なのでありました。
映画の邦題の付け方にああだ、こうだということはままありますけれど、これもまた、でしょうかね。
原題は「The Only Living Boy in New York」でして、そのままサイモンとガーファンクルの曲名なのですな。
ちなみにこちらの邦題は「ニューヨークの少年」となっておりますよ。
「ニューヨークの少年」とは、ずいぶんに摘んだ表現(摘み過ぎて漠然しておりますな)ですけれど、
一方で「さよなら、僕のマンハッタン」とは盛り過ぎなような。
見終わってなお、主人公は「マンハッタンにさよならするのか?…」と思ったりしますし。
時代設定は詳らかではないものの、フライヤーには「サイモン&ガーファンクルが流れると思い出す
今蘇る、あの頃の青春物語」とありますから、まあ、70年代回顧のイメージはあるのかもです。
主人公のトーマスは今風というよりも、いかにも「あの頃の」若者っぽさですし、
その悩み(中身は個人的な事情が大きく反映しているものの)を抱く雰囲気自体が時代を感じさせるような。
それなりに成功した父親に反抗し、家庭を大事に思いつつも精神的に不安定な母に寄り添い、
突如現れた謎の隣人だけは自分の心情を吐露できる若者…ありがちな家族ドラマではありますけれど、
なかなかに好印象の映画ではありましたですよ。
元よりサリンジャーの空気を感じる気がするところへもってきて、
特にジェフ・ブリッジス演じる謎の隣人が実は素性を隠した作家であるとは
やはりサリンジャーを思い出すところもあろうかと。
その背景になるのがニューヨークであって、
華やかではないあたりの、一見無機質なビル群が実際には冷ややかながらも温度感をもって
トーマスを包み込んでいる。要するにニューヨークの映画でもありますね、あの頃の。
そこに(「卒業」のようにふんだんにではありませんが)S&Gの曲が流れていくわけですが、
なんとしっくりくることか。今さらながらにS&Gで感じたアメリカはニューヨークだったのだと思った次第です。
ところでこの映画、タイトルをS&Gの曲に借りて、都会にひとりという孤独感を表出しているものの、
そのストーリーは歌詞とは関わりのないオリジナルですね。空気感を借用したというところでしょうか。
そうした雰囲気だけでも、味わうのは一興でありましょう。
ということで、これまた久しぶりにS&GのCDを取り出してみましたですよ。
映画の原題となった「The Only Living Boy in New York」(ニューヨークの少年)は
このアルバム「明日に架ける橋」に収録されておりますしね。
誰にもそれぞれある(かつてのドラマのようにラグビーで泥だらけになるというばかりでない)「青春」、
その多感な時期に寄りそう音楽がそこにありましたですよ。今となってはひたすら懐かしい…。