ふと気付けば「ひとりごと」を言っているなんつうこともあろうかと。口には出さず、声には出さずとも、

頭の中で考えている…なんつうことも、清水義範の「もれパス」のようなことを考えれば、

まあ、ひとりごととほぼおんなじことでもあろうかと思ったりところなのですね。

 

あまりぶつぶつ言っているのが頻繁になりますと、ちと脳に障害が出ているのかもしれないてなことになるやもですし、

それが進むと幻を見たりすることになったりするのかもしれませんなあ。

 

たまたまにもせよ、先日の新聞で「レビー小体型認知症」なる病気では幻視が起こる…と読んだりしたものですから、

そんなこととも結びつけてしまったりするわけですが、ともあれ、そんなことを考えたのも

映画「私をくいとめて」を見たからなのでありまして。

 

 

ご存知の方は多いのかもですが、あらすじ(Yahoo!映画)はこんな具合です。

アラサー女子の黒田みつ子(のん)は何年も恋人がいないが、脳内にいるもう一人の自分「A」にさまざまなことを相談しながら独り身でも楽しく生活していた。常に的確な答えを導き出す「A」と一緒に平和なシングルライフが続くと思っていたある日、年下の営業マン多田くん(林遣都)に恋してしまう。独身生活に慣れたみつ子は勇気を出せない自身に不安を抱えつつも、多田くんと両思いだと信じて一歩踏み出す。

脳内にいるもう一人の自分と語り合う。このことが特異なこととしてクローズアップされるわけですが、

実は先に読んだ中島京子の『樽とタタン』にも書かれておりましたように、

子供がぬいぐるみと語り合っていることとさほど遠い話ではないように思えますですね。

 

「そりゃあ、子供だったら」と思うやもしれませんですが、

映画に独り住まいの女性(必ずしも女性に限りはしませんが)が登場すると、

やはりぬいぐるみなどに語り掛ける場面があったりします。もちろん、子供とは違って

本当にぬいぐるみが答えを返してくれると思っているわけではないわけでして、

そうなるとほぼほぼひとりごととの境界はさらにあいまいに思えるところでもあろうかと。

 

本編の登場人物も、脳内の相手が実は「自分」なのだと自覚しているところがありますので、

映画として「声」という存在感(しかも、本人の声とは明らかに違う)が示されますと、

違った雰囲気を感じたりするのですけれどね。

 

と、ヒロインの特性(?)のことばかりで長くなってしまいましたけれど、何が言いたいかといえば、

このヒロインは取り立ててどうこういうところもない、ごくごく普通の人なのではないかということなのですよね。

特異な側面にフォーカスしていて、映画だからこそそれをどう見せるかという工夫があることに目が向きがちではあるものの。

 

そんなふうに思ったときに気付いてみれば、「ああ、小説が原作か」と。

綿矢りさという作家は十代で文藝賞を受賞したという印象だけしかなかったもので作品を読んだことはないですが、

映画から、というよりそこに流れる風景からとでもいいますか、文学の匂いがしてきたような気がしたのですね、

特には「水」に絡んだ言葉の使用に。例えば何度か出てくる「ざっぱ~ん!」とか。

 

と、それで思い出したですが、劇中で(エンドタイトルでも)大滝詠一の「君は天然色」が使われておりましたな。

ヒロインには「水と大滝詠一の声はよく馴染む」てなことも言わせていたと思いますが、

これは原作に無い映画としての作り込みなのでしょうね。しかしまあ、個人的には「敢えて、これ?」と思ったり。

 

「君は天然色」は1981年にリリースされた大滝詠一のLP「A LONG VACATION」の中の一曲ですけれど、

通称「ロンバケ」とも言われる、このLP、それまで地味な存在だった大滝詠一にしても突如のバカ売れ、

シングルカットが4種類も出るくらいに、収録曲の数々が町のあちこちから聞こえてきたものでありましたよ。

 

それだけに、「君は天然色」をはじめ、このLPの曲は、時代の空気、時代の雰囲気と切り離せないものとなっているのは

おそらく個人的な思いだけではありますまい。だからこそ、曲に纏いつく思い出というかが拭えないほどに強すぎる。

昔のいい曲だから持ってきましたというわけにはいかないところがあるように思えたものでありますよ。

 

すっかり話は余談になってしまいましたが、余談ついでに言いますと、さほどに売れた「ロンバケ」ながら、

1981年の年間アルバムチャートでは2位であったとは。では、いったい1位は何であったろうと思えば、

寺尾聰の「リフレクションズ」だったのですなあ。たぶんこちらの方が購入する年齢層が広かったのでしょうかね。

 

ついつい、こんな昔ばなしをしだしますと、もっともっとあれこれ掘り出す方向に向かってしまいそう。

おお、どうか私をくいとめて!