ということでひとわたりネーデルラント絵画を見て回りまわったわけですが、
ライプツィヒ造形美術館にあって「ドイツ自前の有名画家で、しかも地元感のある…」となりますと
やはりこの人になりりましょうかね。ルーカス・クラーナハということに。
ヴィッテンベルクにあってマルティン・ルターの協力者でもあり、
またザクセン選帝侯フリードリヒ3世のためにも多くの作品を残したわけで、
ライプツィヒや近隣都市との関わりはとても深いことはこの旅のこれまででずいぶんと見て来ましたが、
ここの展示室もいささか特別仕様の感じがするではありませんか。
ルターの協力者といいましたですが、このような絵もありますな。タイトルは「Martin Luther als Junker Jörg」、
1521年、ヴォルムスの帝国議会で破門され、帝国追放とされたルターはザクセン選帝侯フリードリヒ3世によって
ヴァルトブルク城に匿われるわけですが、そのときの変名が騎士イェルク(ヨルク)でありましたですね。
制作年は1521年ということですので、まさにヴァルトブルク隠遁をリアルタイムで描いたものでもありましょうか。
ルターとクラーナハの近しさを感じるところでもあります。
ところで、展示作品の中で1509年作と最も古いのがこの版画です。
自ら印刷業者でもあったということなれば、版画はお手のものと思うところですけれど、
楽園のアダムとイヴを描いたこの作品、真ん中のイヴを見る限り、クラーナハらしさはまだ確立されていないのかも。
1518年作の、泉のそばに横たわるニンフでも同様ですね。
もっとも、これはポーズ的にはジョルジョーネやティツィアーノを思い出させるだけに
女性の姿像もイタリアのふっくら系を意識していたのかもしれませんですね。
とまれ、後の1533年に描いたアダムとイヴ、これと見比べますと、一目瞭然、後者は「ああ、クラーナハだなあ」と。
これこそクラーナハ描くところの女性像。まあ、男性像の方には目もくれないのか…ということになるのもなんなので、
ひと言触れれば上の版画のアダムはいささか粗野な印象もありますが、こちらは至って草食系男子でもあるような。
と、女性像にばかり目を向けていたわけであありませんので、違う作品も。こちらは1518年頃に描かれたという祭壇画ですかね。
「死にゆくひと」といったタイトルがついておりますが、ちと盛り過ぎな印象でなんだか曼荼羅のようにもなっていようかと。
ま、題材もおそらく描いた目的も異なりましょうけれど、後年1530年頃の作というこちら、
キリストとサマリア人とを描いた一枚はすっきりとした感じで収まっていますものね。
これまで「クラーナハといえば…」的に決まりきった図像のイメージを持つばかいでしたですが、
静かな空間の中で(ほんとうに訪問者が少ない美術館で…)改めてじっくりとクラーナハとも向き合ったのでありました。