ドイツ・ライプツィヒ造形美術館でレオナルド・ダ・ヴィンチの企画展示を見た後に入り込んだ展示室は
どうやらネーデルラント絵画でいっぱい!という部屋なのでありました。
さくっと、ネーデルラント絵画を展観するにはいい内容かもしれませんですよ。
まず、ヤン・ブリューゲル(父親の方)が、1590年頃に描いた一枚は
ハガルとイシュマエルを砂漠に送り出すアブラハムということで、聖書が題材の宗教画ですな。
されど風景は「砂漠?」と思うわけでして、実際はフランドルの景色でありましょうねえ。
聖書由来であってもこうした描き方はどこにもある話ですけれど、これが純然たる風景画の進化につながったはず。
お次の一枚は、すでに聖書や神話と関わりなく、そこに見られる日常の風景を描いておりますよ。
エサイアス・ファン・デ・ヴェルデが描いたアイススケーターのいる冬景色、1615年の作です。
アイススケートはオランダ発祥とも聞きますけれど、画面の中にはまさにアイススケートに興じる少年、
そしてそり遊びをしている子供たち、さらには氷上ゴルフでしょうか、そんな冬の楽しみ方を
大人も子供も考えだしていったのですなあ。
ですが、同じころ、1611年頃のルーベンス作品となりますと、ずいぶんと印象が異なりますなあ。
聖ワルプルガによる奇蹟のシーンでしょうか、例によってドラマチックな画面です。
こうしたドラマチックさは、比較的静謐さが際立つ絵画が多い中ではひときわルーベンスらしい気がしましたですよ。
なにしろ近くで見比べるのが、こうした穏やかな風景ですものね。
こちらは息子の方のヤン・ブリューゲルが描いた運河と船のある風景、
1620~30年頃のフランドルの景色でして、運河といえばオランダを思い浮かべるところながら、
フランドルの中心都市ブルッヘ(ブリュージュ)も運河の町、ブルッヘがそもそも橋の意ですから。
お次は毎度笑顔を描く笑いの画家フランス・ハルスの酔っ払い像(1628年頃)でありますよ。
決して裕福そうではありませんが、屈託のない笑顔からして、こうした人たちにも商売で一山当てれば成りあがれる、
そんな機会のある町だったのではなかろうかと思うところです。ついチューリップ・バブルを思い出したりもしますなあ。
そんな市民階級をも画題にしていたネーデルラント絵画ですが、
その後のフェルメールに影響を与えたとして知られるピーテル・デ・ホーホの作品。
フランス・ハルス描く酔っ払いよりはずっと裕福でしょうけれど、家庭の中のほんのひとときを切り取った、
(目隠しした子供にパンを探させているようなところですかね)
題材としては何の変哲もないものですけれど、これが画家として商売になるのですから、
当時このあたりの市民階級のようすが偲ばれるというものです。
これがフェルメールになると、場面としては同じような家庭の室内を描いていながら、
見たままの家庭の一場面であることを超えたものを見る側に与えるようになるのですから、
それこそフェルメールの絵のタイトルではありませんが、「絵画芸術」なるものをしみじみ思ってしまいますなあ。
さて、ネーデルラント絵画の展示室の締めは、ヤン・ダヴィス・デ・ヘーム作の「花束のブーケ」(1675年頃)。
一世を風靡した静物画はどれも精緻なものであるなと、いつ見ても関心させられるところでありますよ。
という具合に、ネーデルラント絵画らしいところをさくっとひと巡り。なかなかに豊穣な世界でしたなあ。
と、ライプツィヒ造形美術館の展示室巡りは今少し続きます…。