ちと古い映画ですが、「フランス軍中尉の女」を見たことなかったので今さらながら。

交錯する過去と現在を同じ配役が演じて、今も昔も女と男は…という重層感を出しているわけですが、

ここではもっぱら音楽の方のお話を。

 

 

随所随所でうまい具合にクラシカルな音楽が実に嵌っていて、

でもこれ、きっと既存曲の使いまわしでは無さそうだし…となると、

何とも久しぶりにサウンドトラック盤でも探してみようかなと思ったのですが、

さすがに1981年の映画でさほどに音楽自体が注目されたというのでもないようで廃盤ですかね。

 

と、そんなふうなことを思ったときに、そういえば(とは言わずもがなですが)映画音楽のサウンドトラック盤もまた

バレエの全曲盤みたいとものでもあろうかなと、先日の思い巡らしに事寄せて。

 

先にバレエ音楽のことで書きましたのは、演奏会用に再構成された組曲のような形の場合は

音楽そのものとして受け止めやすかった一方で、全曲を聴くときには本来のバレエが寄り添っていてほしくなる、

とまあ、このようなことだったのですけれど、似ていると思った映画のサウンドトラックの場合、

映画全編の各所に付けられた音楽を集めてあるものですから、単にヒットした主題歌を聴くというのと違って、

やはり映画そのものが寄り添っていてほしくなる…かというと、どうも事情が異なるような気が。

 

これは劇伴としてのそもそもに違いがあるのではなくして、それぞれを聴くときの聴く側の意識に違いがあるような。

なんとなれば、映画のサウンドトラック盤を耳にするとき、増してや買って聴こうと考えるとき、

その映画を見ていないということはおよそなさそうな気がするからでありまして。

 

映画の印象的なシーン、ここに印象的な音楽が付いていたなということを反芻したいがために、

サウンドトラック盤購入の意図があったりしたのではなかろうかと思うのでありますよ。

 

これは多分に同じ映画を何度も手軽にみられる今となっては、

そうでなかった時代を想像してもらうしかないような気もしますですね。

そんな時代の違いは映画音楽そのものにも変化を与えたかもしれません。

 

キャッチーな主題歌、あるいは主題曲ばかりクローズアップされることでよい、

つまりは映画全編に流れる音楽にはさほど注力しなくともよいということになりましょうか。

なんとなればサウンドトラックCDとして売れる可能性は従来よりも格段に減っているように思いますし。

(もっとも、映画の音楽部分を全て収録すると2時間にもなってしまいますので、正確には全編ではないですが)

 

と、それはともかく、その反芻度合いが映画以外の劇伴との違いの一要素であろうかと思ったりしつつ、

あれこれ思い返してみると、バレエ音楽にしても脳裏に焼き付いたような公演があったとするならば、

それを反芻するかもしれない。

 

普段は演劇とは離れて音楽として聴いているメンデルスゾーンの「夏の夜の夢」の劇音楽も

かつて一度だけこれらの曲を実際の芝居に流した公演を見た記憶を反芻しているかもしれません。

ですので、前言撤回とまではっきりした意思表示には至りませんが、

先にバレエ音楽全曲を聴いて考えたところというのは、その時の気分であったかもと思ったりしますですよ。


ところで、こうした思い巡らしのきっかけになった映画「フランス軍中尉の女」の音楽は

誰が手掛けていたのであろうかと思えば、これがカール・デイヴィスであると。

確かに映画音楽と関わり深いようですが、基本的な出自はクラシック畑でありましょうかね。

だからこそ「フランス軍中尉の女」のクラシカルな音楽だったというわけなのですなあ。

 

で、それとは別にカール・デイヴィスと聞いて「何やら覚えが…」と思いましたのは、

このCDに関わっていたなのですなあ。わりとすぐに思い出せました。

 

 

ポール・マッカートニーのクラシカル作品として知られる「リヴァプール・オラトリオ」、

これをポールと共作の形で作り上げたのがカール・デイヴィスだったのでして。

 

稀代のメロディーメーカーであるポール・マッカートニーが手掛けたとあって

1991年の発売当初に即買いしたCDは何度か聴きましたけれど、期待値があまりに高かった故でしょう、

その後長らくお蔵入り状態になっておりました。

 

オラトリオという、ヘンデルによって英国にはお馴染みのクラシカルなものであるという意識で臨むつもりはあるも、

どうしてもビートルズのソングライターであったことの反映があることを期待してしまったわけですね。

そんなCDを久しぶりに引っ張り出して聴いてみたわけですが、

これってミュージカル的に受け止め方をすればいいのかもと改めて思い至った次第でありますよ。

 

ロイヤル・リヴァプール・フィルハーモニー管弦楽団創立150年にあたり委嘱された記念碑的作品ながら、

記念碑はそこにありつつも、当たり前の風景として溶け込んで、行き交う人の意識には登らなくなっていくことしばし。

なんだかそうしたことと共通点がありそうな曲であるなあと。やがて埋もれていくのかも…。

 

無理やり話を最初の方とつなげますと、映画の中の音楽も(場合によって映画ともども)埋もれていくのかもですが、

それをいささか残念に思ったりする一方で、やはり耳にを欹てさせる音楽であったかどうかがポイントなのでしょう。

 

もちろん今でも、サウンドトラック盤の発売が無くなったわけではないでしょうけれど、

仮に映画の方が忘れられたとしても全曲盤的に残るような映画音楽は今後も出てくるでありましょうか。

かつて「映画音楽」なるものがひとつのジャンルであったと思しき時期にたくさん聴いた者としては

いささか気になるところなのでありますよ。