ちょいと前にニューヨーク山中商会にまつわる本を読みました折に、

1876年のフィラデルフィア万博終了後、出展されていた日本の美術工芸品が現地で多数売り払われて、

こうしたあたりから日本を始め東洋美術を扱うことに商機があるとされ、山中商会などもで乗り出していった…と

紹介されていましので、万国博覧会にはそうした機能(?)もあったのであるかと思った次第。

 

まあ考えてみれば、フランス発祥とも言われる万国博覧会のそもそもは、

中世のシャンパーニュの大市あたりにもつながるような気がしますので、驚くには当たらないのですけれど。

 

さりながら、そうした交易のための市よりも見本市(それも表立って商売気はみせていないというか)のようかもと思えた

1970年大阪万博との間には何かしらの変化があったということになりましょうか。

その辺にも触れてあるかなとに手に取ったのは平凡社新書の一冊「万国博覧会の二十世紀」でありました。

 

新書690万国博覧会の二十世紀 (平凡社新書)/海野 弘

 

先に万博はフランス発祥とも言われるてなことを言いましたけれど、昔々の大市とのつながりはともかくも、

大革命期以来、たびたび内国博覧会を開催して実績を積んできたフランスでは、

規模を拡大し、他国も招く「万国博覧会」(フランス語でExposition universelle、だもんでエキスポ)の開催を

呼びかけるのですなあ。これが1849年です。

 

ですが、1951年に第1回の万博が開催されたのは英国のロンドン。

クリスタル・パレスとして知られるガラス張りの巨大建造物がハイドパークに出現したことで有名ですな。

とまれ、第1回は第1回ですので、英国にしたら「こちらが発祥」と言うかもしれません。

 

ありていにいって国威発揚(経済的な意味でもですが)に利すると受け止められたか、

その後万国博覧会(と称するイベント)はあちらこちらの都市で開催されることになっていきますが、

乱立によってブランドイメージが損なわれることのないようにでしょうか、

1928年に国際博覧会条約というものが締結されまして、安直に万博を名乗ることができなくなるのですね。

 

1970年の大阪万博後の日本でも「〇〇博」みたいなイベントが結構あったものですから、

子供心に「万博ってそんなに年中、あちこちにあるのか…」などと気持ちの盛り下がりを経験したものでしたが、

全部が全部、いわゆる万博ではなかったのですなあ。うすうすそうかなとは思ってましたけれど(笑)。

 

それはともかく、条約ができて以降も公認の博覧会、非公認の博覧会は続いていきましたけれど、

時代の状況はだんだんと博覧会どころではなくなっていくわけで。戦争の時代でありますね。

ようやっとヨーロッパのその気になったのは1958年、この年にブリュッセルで万博が開かれます。

 

テーマは「新しいヒューマニズム」、原子力の平和利用などにも目が注がれていたことから、

シンボル的な建造物として「アトミウム」が作られる。周辺が平らな土地だものですから、

近郊のメヘレンの町に行ったときには遠くからその変わった形(原子模型みたいなものですね)を

眺めることができましたですよ。

 

しかしながら核の平和利用を標榜しながらも、

ビキニ環礁で第五福竜丸が被曝した水爆実験は1954年に行われており、

核軍拡競争が起こっていた…というのもまた現実でしたから、

科学の発展を恩恵として展示に込めてきた万博は考え時になっていたのかもしれません。

 

それでも1960年代にはちらりほらりと万博が開催されましたけれど、

その締めくくり的なところに位置するのが1970年の大阪万博でもあるようですね。

テーマの「人類の進歩と調和」は、流れをたどってくればなおのこと、今さら感があるといいますか、

こういっては何ですが、深く考えずにつけてしまったのではなかろうかとも。

 

まあ、こと日本にとっては敗戦の焼け野原から再出発して、1964年には東京オリンピックも開催し、

続いてはこれだとばかりの70年大阪万博ですから、とりあえず平和になり、豊かにもなってき、

さてこれからは未来の展望だあ!てな勢いでもあったのかもしれません。

ですが、それはあまりにも視野の狭い考え方だったようにも思われるところです。

 

万国博覧会がいかに時代感覚とのズレに悩んでいたかは、

大阪万博の後、正式なものとしては1992年のセビリア万博まで開かれなくなってしまったことでも

想像ができるような気がしますですよ。

 

そして、昨秋に太陽の塔を訪ねるべく大阪に行ったおり、世間知らずとしてはほどんど認識しておりませんでしたが、

2025年にまた大阪で万国博覧会が開かれるてな告知を見かけることになりました。

テーマは「いのち輝く未来社会のデザイン」だそうですので、

さまざまなバリアをとっぱらう共生社会のデザイン追求があれこれ具体的な形として示されるのかも。

 

こういう言い方もないものだとは思いつつも、つまるところ見本市的なところに帰っていくのでもあるかなあとも。

いったいどんなイベントになりましょうかねえ。新たな万博の姿が見られることになるのでしょうか。

素直に楽しみと言えないのは天邪鬼だからかもしれませんが…。