NHKの愛知発地域ドラマ「黄色い煉瓦〜フランク・ロイド・ライトを騙した男〜」がBSから地上波に降りてきて、
(電波が衛星から地上に降りてきたわけですから、この表現で差し支えないでしょうかね)
先ごろ放送されたのを(例によって録画で遅れて)見たのですけれど、
いやあ、土管に囲まれた常滑の路地風景を見て、昨年6月に訪ねたことが懐かしく思い出されましたですよ。
「フランク・ロイド・ライトを騙した男」とは何ともキャッチーなタイトル付けですけれど、
確かに仕事を請け負って全うできない(全うしない)久田吉之助は結果的に「騙した」ともいえましょうが、
タイトルのわりにはどちらかという吉之助の職人性に肩入れしている部分もあるようにも。
この帝国ホテル(ライト館)用の煉瓦発注に関しては資料が少ないようで、
帝国ホテル差し回しの牧口銀司郎(ドラマでは実に損な役回りでしたな)の残した手記に頼ることになりますと、
吉之助は全くの詐欺師ということになってしまうようでありますね。
ではありますが、このあたりの背景には職人の仕事ぶりに対する理解があったかどうかが
大きく関わってもいそうです。Wikipediaの、この記載が理解の助けになるような。
久田吉之助も「土の事から心配し」と言っていたように、当時の陶工は粘土の出る山を選定することから始め、焼成のための窯や工作機械を自作し、その上で焼成実験を繰り返して成果をだす、長いスパンで仕事に取り組むのが常であった。… 都会の近代経営の会社組織から派遣されてきた技術者・管理者と、常滑の陶工・職工たちとの軋轢は、久田吉之助の事例に限ったことではなく、よくあることであった。
ともあれ、帝国ホテル向けの「黄色い煉瓦」作りの仕事は久田の手を離れ、
新たに作られた「帝国ホテル煉瓦製作所」へと引き継がれることになるわけですが、
ここに関わったのが伊奈長三郎でして、伊奈製陶(のちのINAX、現在はLIXILに統合)の創業者のひとりですな。
ドラマの中では伊奈長太郎(のちに長三郎と改名)として出てくる人物です。
こうなってきますと、常滑で訪ねた「INAXライブミュージアム」の展示を振り返っておきたくなるのですよね。
帝国ホテルの煉瓦製作に関しては、主にテラコッタ関係の展示があった「建築陶器のはじまり館」こ
解説があったように思いますので。
まずもって、ここには「F.L.ライトが設計した帝国ホテル旧本館・ダイニングルームの柱」が展示されて、
その解説にはこのようにありました。
この柱に使われたスダレ煉瓦は、常滑にあった「帝国ホテル煉瓦製作所」で作られた。常滑の伊奈初之烝と伊奈長三郎親子が技術顧問となり、スダレ煉瓦の生産を指導した。
ここでいうスダレ煉瓦というのが、ドラマでいうところの「黄色い煉瓦」でありますね。
表面にスダレのような引っかきキズを手仕事でつけることによって、不均衡な陰影が生まれるという。
と、スダレ煉瓦の説明はともかくと、先の解説には久田吉之助の「ひ」の字もでてきません。
これは?と思うわけですが、続きの解説を見ていきますれば、ちと長いですがこのように。
赤煉瓦の色が新しい建築を彩った明治時代に、久田吉之助は知多半島南部で採れた粘土を使った「黄色み」の強いタイルやテラコッタをつくりました。この色合いこそが、後に20世紀の建築界の巨匠フランク・ロイド・ライトと常滑を結びつけます。ライトは帝国ホテル旧本館(ライト館)の壁に黄色みの強い煉瓦を熱望し、知多半島の採土場まで足を運んだといわれます。その結果、常滑に直営の工場「帝国ホテル煉瓦製作所」が設営されました。
これでもまだ久田の功績を語り継いでいるようには思えないところですけれど、
その間隙を埋めるのが今回のドラマでもあったということになりましょうか。
こんなふうに掘り出される人物、事績がまだまだたくさんあるのだろうと想像すれば、
むべなるかなと思ったりもするのでありました。