もっぱらTVは録画で見るものですからTV番組の話題に触れようとすると概して周回遅れで…とは
あまりに毎度毎度のエクスキューズではありますが、とりあえずこたびもまた。
何せ触れようとしている番組は2月21日放送分ですので、周回遅れも甚だしいものですから。
で、その番組といいますのがEテレ「にっぽんの芸能」でありまして。
そも和ものの伝統芸能にいささかの興味を示しだしたのが近年のことですので、
かの番組を見ているといっても内容によっては「見よっかな、どうしようかな」と思うこともしばし。
歌舞伎や狂言にはなんとか付いていけるけれども、能はいささか悩ましい…なんつうこともあるわけで、
それこそ日本の古典芸能を幅広く扱う中では、しおしおのぱ~状態になることもないではないのですよね。
ところが、予期せぬところで思わぬ食いつきをしてしまうことがあるのも事実でして、
「筝曲、すげえなあ」と思い至り、近くの図書館でCDを借りてきてしまったりということも起こるとなれば、
出会いがしらを楽しんでいるとも言えそうなところです。
そんな中にあってこのほど見たという2月21日放送回の内容はといいますれば、「今藤政太郎の世界」というもの。
申し訳のないところながら「この人、だれ?」と思えば、長唄三味線方で人間国宝という方らしい。
といっても、「長唄…?」という状況だったのですけれど…。
「こないだ、長屋に長唄のお師匠さんがこしてきたらしいねえ」
「そうそう、ちょいと年増ながらえらい別嬪て噂じゃねえか」
「そうかいそうかい、おいらもひとつ、ちんとんしゃんと手取り足取りしてもらおうかな」
「けっ!長唄の稽古に足取りてなことがあるもんかい」
いやはや、長唄と聞いて思い浮かぶのはこんな会話が落語でもありそうだというくらいなものながら、
今回の番組では必ずしも伝統的な長唄の演奏を取り上げるというものではなくして、
作曲家・今藤政太郎の作品にフォーカスしたものだったのですなあ。
御年84歳とはいえ今を生きる作曲家とあってはまさに現代音楽、現代邦楽の曲作りをされておられるわけで、
番組で取り上げられた曲を聴いて、「おお、これが邦楽であるか?!」というスケール感でありましたよ。
使われている楽器は三味線を主体であるものの、幅広く邦楽の世界から自由な組み合わせで
アンサンブルを組んでいるあたりも新鮮であったわけですが、先にも申したようにスケール感、
ありていにいってこのスケールの大きさが邦楽の世界にもあったのかということに驚きを禁じ得なかったという。
(もちろん予備知識が異常に少ない中での個人的感想ですが)
伝統に寄りかかっているだけではいけんと思ったからこその作品でありましょうか、
23歳の処女作「六斎念仏意想曲」はジャズ・ドラムをも意識したとかいう太鼓のリズムが
和ものの「おっとり」という印象を拭い去りますね。三味線の合奏もまた。
折口信夫の著作を音楽ドラマに仕立てた「死者の書」にもなりますと、
使っているのが邦楽の楽器というだけのことで描き出される世界は近代西洋音楽の流れでいうなら、
例えばベルリオーズの実験的な作品作りを思ったりするところなのですなあ。
いやあ、実に大きな世界です。
とまあ、そんなふうにこの番組内容で好みに合うかなてなところで仕分けをしていないが故の出会いがしらには
年経ても驚かされたり、目を開かされたりすることがあるのですよねえ。
そうしたことを考えるにつけ、予め好きなものだけを選びだした音楽だけ聴いていたり、
はたまた検索傾向から「きっとあなたは、これ好みでしょう」的なことにばかり目を向けてしまったりしますと、
新しいこととの出会いを自ら狭めてしまうことになってしまうのではなかろうかと。
ま、そんなふうにも思いましたですよ。