讃岐うどんの昼食を済ませ、金刀比羅宮 の参道にまでやってきました…ですが、
ここまでやって来て金刀比羅詣でをしないというのも実に個性ある選択ではなかろうかと。


まあ、理由としましてひとつには混み方が尋常ではない。
もうひとつには剣山登頂の翌日だけに「登りはしばらく勘弁…」という声があったわけで。


ご存知のように金刀比羅宮は山の中にありまして、本宮までで785段、
奥社を目指せば全部で1368段の石段をクリアせねばならないという場所ですのでね。
申し出た者の気持ちも分らないではない。


ま、個人的には伊勢に出かけて内宮に寄らないという実績もありますし、
こんぴらさんといえば森の石松が清水次郎長の代参をして、その帰りに
浪曲 で有名な「石松三十石船」のシーンになる…というあたりでの興味が一番てな状況ですから、
また来られないわけでなしと、石段下から高みの宮を遥拝するに留めたのでありました。


で、その代わりというわけでもありませんが、琴平まで来て訪ねてみたのはこちら。
国指定重要文化財「旧金毘羅大芝居(金丸座)」、こちらもたどり着くまでには少々登るんですけどね。



なんでも、創建は天保六年(1835年)とあって日本最古の芝居小屋なのだとか。
江戸期の中頃から歌舞伎などの興行を行う仮小屋があったそうですけれど、
金刀比羅宮の門前町が整ってくるにつれ、常小屋を望む声が上がったのだそうでありますよ。



2003年に大改修が行われたせいかとても日本最古とは思えませんが、
それは外観のみならず客席の方も。



そして、今の歌舞伎に使われる廻り舞台もセリもすっぽんも
みな用意されているとは大したものですよねえ。



奈落に下りてみますと、廻り舞台を人力で対応したさまが偲ばれます。
観客が楽しむ演出を手掛けるのは当時の舞台人のやりがいだったのでしょう。



ただ裏方として、舞台を回す力仕事は大変だったろうと想像するところながら、
かようなコロが仕込んであったとは、これまた考えられておるではありませんか。



こちらは舞台裏の楽屋です。小津安二郎の映画「浮草」で
旅回りの一座が興行を打つ芝居小屋の楽屋を、つい思い出しましたですよ。
確か主演は二代目中村鴈治郎(当代の祖父)でしたなあ。


浮草 4Kデジタル復元版 Blu-ray/若尾文子

と、こちらは天井のブドウ棚と呼ばれる部分。
広さはありますけれど、今のキャットウォークほど頑丈ではないでしょうから、
これはこれで怖かったでしょうなあ。花吹雪を舞わせたりしたのでしょう。



まあ、改修の甲斐あって見た目はきれいといえども、仕掛けの方は江戸期のまま。
それだけに不自由さは山ほどあろうかと思うところですけれど、
昔ながらの客席と実に近い舞台で演じる甲斐というのもあるのでしょう、
1985年以来、毎年春に「四国こんぴら歌舞伎大芝居」が行われているという。
今年は「義経千本桜」から「すし屋」ほかが演じられたようですね。



小屋の外には、出演した中村勘九郎ほかの幟がはためいておりましたが、
こうした小屋で歌舞伎を見るというのも乙でしょうなあ。
(ご覧になった方のブログ記事を拝見もしましたが、なんともうらやましいことで)