ちょいと前に両親を新宿末廣亭 での落語に誘いましたですが、

その時には遅れて入場したのが災いしてパイプ椅子に座ることになってしまい、

長丁場に耐えかねるところもあって最後まで聴き通すことができずじまいでありました。


そんなわけでしたので、ここはひとつ仕切り直しでと国立演芸場へと繰り出すことに。

10日までの4月上席では、先日の末廣亭を最後まで聴いていたならトリに登場したはずの

林家正蔵が奇しくもトリを務めるとはあたかも雪辱戦のようなところでありましたですよ。


国立演芸場4月上席

それだけに今度は最初から最後までというこだわりで、

13時からという表向きの開演時間前に出てくる前座から最後までを聴いてきたわけですが、

こういっては何ですが、聴き比べればなおのこと違いを如実に感じるものですなあ。

上方落語には無いという、前座、二つ目、真打という序列も伊達じゃないと。


たまたまにもせよ、先日のEテレ「落語ディーパー!」で

笑いをとりやすいので若くてもやるけれど実は難しいてな話のあった「真田小僧」を

若い人がやるとなるほどこんなふうになるか…てなことを思ったりもしましたし、

実は長い話になる「宮戸川」を途中で切り上げてもベテランの味にはこれまたなるほど。


時季的なところから掛けたのでしょう、「長屋の花見」はいまさらというくらいに知られた噺で

どう展開するのか分かっていながら笑ってしまうのは安定の技というところですかね。


例によってこうした落語の合間合間に漫才や漫談、そして曲芸などが入ったりして、

迎えたトリに登場するのが林家正蔵ということになるわけです。


今でこそ9代目で大看板を背負った正蔵ですけれど、

どうしても「林家こぶ平」の名前とテレビでのタレント的活動の方が印象深いような。

本人もそうと意識してのことか、まくらに使ったエピソードはこんな具合。


国立演芸場の前で「正蔵さん?」と声と掛けてきたおばさんが

「こんなところで何やってんの?」と言ってきたというのですな。

端からこの人が落語をやるとは思われていないわけでして、

実は個人的にも先ほど申し上げたような印象から「落語、できるの?」という気もしていたという。


目立つ活動がテレビだったりしましたし、それよりも何より師匠(であり父親であり)が

先代の林家三平ですから、稽古をつけてもらえたのだろうかと思ってしまうものですから。

「昭和の爆笑王」と言われた三平ですが、古典の語りはどうなのか知れず…。


ですが、どんなふうに稽古をしたのかは分かりませんが、案ずることはありませんでしたな。

前に何かの番組で正蔵が「落語が好きで好きで」てなことを話していたのを耳にしたですが、

「下手の横好き」にとどまらず「好きこそものの上手なれ」の方向には行っているのでしょう。


ただ、名跡が名跡ですのでどうしても生半可な出来では許されないと、

見る目の厳しさは本人も感じていることでありましょう、きっと。


だからこそ敢えて言ってしまえば、この日取り上げた「井戸の茶碗」、

運びとしては安心して聴いていられる語り口ではあったものの、

最後に浪人者が娘を熊本藩細川家の若い侍に嫁がせるというくだりは

浪人者と若侍とが相互にその人柄を見込んでいるという含みを示しませんと、

なんとなく娘を身売りしているだけみたいなふうにも思えてしまうのですよねえ。


とはいえ、こういってはなんですが、当初の期待値が高くなかっただけに(失礼!)、

「やるじゃん」」と決して印象は悪くない。

どうかテレビにかまけず、頑張って高座を務めてもらいたものだと思ったりしてですよ。


そうそう、両親はシルバー料金1,400円で落語たっぷりを満足して帰りましたっけ(笑)。