伊勢河崎 の古い建物のことに触れましたので、
思い出したように江戸東京たてもの園探訪 の続きです。
お次に登場するのは小寺醤油店、
「大正期から、現在の港区白金で営業していた酒屋」さんですが、
なぜか看板は醤油店なのでありました。
なんでもこのお店の創業者は中野坂上にあった石森醤油醸造所で修業したという経緯があって、
「醤油店」の看板を掲げているらしいのですよ。
ただ、当時は「酒屋で味噌や醤油を売ることは珍しいことではな」く、ここのお店でも
味噌や醤油を扱っていたそうですから、まあ、あながち看板に偽りありでもありませんですね。
ちなみに、かつては東京にも中小の醤油醸造業者がたくさんあったようすながら、
だんだんと減り、石森醤油醸造所も今では石森製粉という製粉業に商売替えしているようです。
余談ながらそば粉で有名らしいですよ。
まあ、この辺りの事情は考えてみるまでなく、醤油をじゃぶじゃぶ使うてな使い方から
日本の食卓事情が変化したということになりましょうか。
戦後の推移だけをみても、一貫して醤油の消費量は減り続けてますものね。
それでも今現在、全国には2,300の醤油醸造業者があるそうで、
旅の途中に立ち寄っただけでも館林
の正田醤油
ですとか、高崎
の岡醤油醸造
ですとか、
小さくとも頑張っているところはある。
さりながら、企業経営の常でスケールメリットを出すためには大規模集約化も進むわけで、
関東で言えば醤油造りに歴史の長い銚子
のヤマサ
やヒゲタ、
野田 のキッコーマン などばかりがスーパーなどでは目立つ存在かと。
まあ、それも止む無い話ではありまして、
生産量全体の半分以上を千葉県と兵庫県で造っているのだそうです。
と、ここでせっかくですから店内の解説にあった「醤油の種類と産地」を整理しておくとします。
ひとくちに醤油といっても、地域によっては主に使われる醤油に違いがあるのかもですね。
濃口醤油:香りの強い日本の代表的な醤油。大豆と小麦をほぼ同量使う。千葉県を中心につくられ、現在総生産量のおよそ83%を占める。主に関東地方全般で使われ、全国的にも使用されている。
淡口醤油:色や香りを抑えて造る、色調のうすい醤油。ただし、塩分は濃口醤油よりも高い。現在総生産量のおよそ14%を占め、関西地方全般で好まれるが、全国でも使用される。
溜醤油:多量の大豆と少量の小麦、食塩水で造る色の濃いコクのある醤油。もっとも古い製造方法で造られる。主に愛知県、岐阜県、三重県で使われる。
再仕込醤油:食塩水の代わりにもろみをしぼった醤油を使う特に濃厚な醤油。主に山口県、九州・山陰地方で使用される。
白醤油:精白小麦に少量の炒った大豆を加えてつくる非常にうすく糖分の多い醤油。愛知県のご当地ものとか。
ところで、江戸の頃には商品を入れた樽を天秤棒で担いで売り歩くという
醤油売りの姿があったようですね。「江戸商売図絵」にはこんな絵があるようです。
向かって左側の樽の上には漏斗と枡が見えていますように、
当然にして量り売りだったのでしょう。
「昭和30年代くらいまでは量をはかってお客様の持参した瓶や徳利に入れて売られていた」と
解説にあった伝統?の販売方法はこれに由来しているのでしょうかね。
個人的には(前にも書いたことがあるやに思いますが)
ソースの量り売りをしてもらっていたという記憶がありますなあ。
その当時の我が家では、サントリーウイスキーの角瓶にソースが詰まっており、
なくなると角瓶をもってソースを買い足しに行っていたような。
ソースなり醤油なり、今のようにプラ・ボトルや瓶に入ったものをスーパーで買うのは
確かに便利ですけれど、この量り売りは簡易包装の極致みたいなものでもありますよね。
余分な包装資材が一切掛からないという点で。
いちいち瓶を持って買いに行くというのは面倒でもありますけれど、
考えてみれば昔は豆腐もラッパが聞こえるとざるだかなべだかを持って買いに行きましたっけ。
こんなふうな思い出し方は単なるノスタルジーでしかないとは思うものの、
悪いことばっかりじゃ無かったのだろうなあと今にしても思うのでありますよ。