単に服飾系の展示であるならおそらく出向くこともなかったろうとは思うところながら、

「タータンにまつわる美術作品や資料を通じてその歴史や社会的、文化的背景をご紹介」

とフライヤーにあったものですから、出かけてみたのが

「タータン 伝統と革新のデザイン」展@三鷹市美術ギャラリー でありました。


「タータン 伝統と革新のデザイン」展@三鷹市美術ギャラリー

まずもって、そもそも「タータン」とは?というところからなりますが、

タータンといえばスコットランド でしょうと思えば、

「(タータンは)スコットランドを象徴する文化ですが、スコットランドが発祥の地ではありません」

と展示解説に。


起源は土地にあるのではなくして、3500年以上前の古代ケルト人であって、

ケルト人が移動するに伴い、スコットランド、特にハイランド地方に渡り、

老若男女が衣服として用いるようになったということのようで。


これがあまりにもスコットランドらしさを表すことにもなったか、

ジャコバイトの反乱が起こるなどしたときに英国政府は

タータンがアイデンティティーの象徴にもなるとして着用禁止にした時期もあるのだとか。

その際には同様にバグパイプやゲール語の使用も禁止したそうでありますよ。


そんなタータンだけに相当に厳格な定義があるようでして、

スコットランド・タータン登録法という法律があり、

スコットランド国立公文書館が管轄するスコットランド・タータン登記所が

登録されたパターンのすべてを管理しているということです。

(もっとも法律は2008年制定なので、遅まきながらかもですが)


で、登録認可の前提としてタータンかくあるべしの内容ですが、

ひとつには「2色以上の色をつかい、それらの糸が直角に交わる格子柄であること」、

そして二つ目には「たて糸とよこ糸につかる糸の色と数が同じで、

基本パターンが繰り返されること」だとか。


ですから、こうしたデザインを施した毛織物であるとの前提は近代以降には薄らいで、

デザインそのものをタータンと認識するようになっているようです。


ところで、タータンといえば「ああ、チェック柄ね」と思ってしまうところながら、

これはちと安易にすぎるようで英語圏では「チェック」の意味するところに2種類あり、

ひとつは「市松模様」というものですが、もうひとつには

「タータンでないものの総称」を意味するとも。

となれば、やはりタータンとチェックは別ものと認識すべきなのでしょう。


そんなタータンには種類として、

クラン・タータン(スコットランドの由緒あるクラン=氏族とその家族専用)、

ディストリクト・タータン(地域に関連したもので、最も古くからある)、

ミリタリー・タータン(軍隊の制服に用いられるもの、部隊ごとの違いを示すのでしょうか)、

ロイヤル・タータン(王家専用、もっともイングランドはこれを嫌っていたはずですが…)、

コーポレート・タータン(組織や企業が販促や象徴として作成するもの)などがあると。


コーポレート・タータンで有名なのはブルックス・ブラザーズのものですとか、

日本でも1958年にショッピングバッグに採用された伊勢丹のタータンほかが

先の登記所に登録されており、そのほかにもかなり数多くあるのだそうですよ。


と、こうした解説のほかに展示としてはタータン柄のシルクのアフタヌーンドレスやら

ファッション関係のものもあれこれ並んでおりましたですが、ちとその辺は端折り。

やはり「歴史や社会的、文化的背景」の方にばかり目が向いておるようで(笑)。

とまれ、そうした観点から見るだけでも十分に楽しめる展覧会でありましたよ。