そう言えば見たことなかったっけな…と、何とはなしに手にとったDVD。
見てみましたら、先日のイングランド・スコットランド話 の余韻も冷めやらぬこの段階で、
何とまあイングランドにいたぶられるスコットランドの反抗を扱った映画であったとは。
メル・ギブソン監督・主演の「ブレイブハート」であります。
そうは言っても、先に触れた話しはもっぱら清教徒革命から名誉革命のあたりでしたですが、
この映画の時代背景はイングランドがエドワード1世王(在位1272-1307)の時代ですので、
隔たること400年がたはあるわけですが…。
スコットランド王家の断絶に乗じたイングランドのエドワード1世が支配の手を伸ばし、
スコットランドの民は新たな領主として入り込んできたイングランド貴族の
圧政下におかれることに。
戦うべきスコットランド側の貴族たちは土地と報奨を餌に、
すっかりイングランド王に手懐けられており、いっかな民の生活は改善されない。
そんな中から、あたかも一揆のように農民の反乱が拡大していき、
その頭目となったのがウィリアム・ウォレス(メル・ギブソン)でありました。
ウォレス率いる農民軍はたびたびの局地戦に勝利を重ねていきますが、
イングランドとの一大決戦にはどうしたって貴族が本来の軍を連ねて参戦してこないことには
お話にならない。
そこで貴族たちとの会見に及び、一致団結して戦う約束を取りつけますが、
どうにもこうにも日和見で食えない貴族連中にはウォレスならずとも、
見ている側まで嫌気がさすという状況。
とまれ、全編に渡ってウィリアム・ウォレスが大活躍なのでして、
イングランド皇太子に腰入れしてきたフランスのお姫様とのロマンスまで盛り込まれ、
さすがに作り過ぎの話に思えてくるところでありますよ。
ですが、1995年のアカデミー賞で作品賞、監督賞を始め5部門受賞の歴史大作とあっては
そうそうめったやたらなことはしていないだろうと思っていたところ、どうしてどうして、
「映画は映画」と割り切っているということなんでしょうか、制作する側も選考する側も。
ウォレスはスコットランドの自立への志なかばで、
これまた裏切りによってイングランドに囚われの身となってしまいます。
「イングランド王に忠誠を誓えば、刑は軽減されるぞ」との仄めかしにも肯ずることなく、
残忍な拷問の果てに「スコットランドに自由を!」と叫んで事切れるのでありました。
かくして「ブレイブハート」の物語は、
ウォレスの遺志を継いだ貴族のロバート・ド・ブルース(後のスコットランド王ロバート1世)により
スコットランド王国の自立への道がつけられる…と終わっていく…のですが、
かような物語で「ブレイブハート」というタイトル、当然にウォレスのことだと思いますよねえ。
ですが、史実で「ブレイブハート」と呼ばれるのはロバート1世、というよりその心臓。
死後もどうやら取り出されていた心臓だけ保管されて、
十字軍の戦いにあたって持ち出されたのだとか。
スコットランド独立回復の勇者にあやかったのですかね…。
ということで、ウィリアム・ウォレスを持ち上げるためにいささか割を食ったロバート1世ですが、
こちらもひどく割を食ったと思われるのがイングランド王エドワード1世(パトリック・マクグーハン)。
映画を見る限りでは、とんでもない暴君に見えるという。
しかしながら、トランプのキングのモデルとも言われて、
イングランドの王様の中では名君の部類に入るのだとか。
そして想像に難くないこととして、
ウォレスとフランスのお姫様(ソフィー・マルソー)とのロマンスもフィクションでありますね。
あたかもウォレスの血脈がその後のイングランド王家を担ったかのほのめかしも当然に。
ですが、後々テューダー朝を引き継ぐスチュアート朝の王様が
スコットランドからやってくることなんかを見ても、イングランドとスコットランドの争いというのは
どうしても内戦のように見えてしまうところ、なきにしもあらず。
ブリテン島という島の中での争いを日本の戦国時代と比べてよいものやら分かりませんけれど、
内輪もめにも思えてくるような気がしないではない。
まあ、何をもって内輪というかが問題なのでしょうけれど、
「どれほど違うか」という面でなくて「どれほど同じか」という目の向け方もあろうかと。
もっとも「同じ」を強要して、独自の文化や言語を排除して均一化するようなことが
まま行われてきた事実もありまほうから、難しいところではありますけれど。
とまれ、何も「ブレイブハート」だけの話ではありませんので、
これだけ悪しざまに言うつもりはありませんが(映画としては面白いと思いますし)、
ただ鵜呑みにはできませんということだけ改めて。
この点では歴史小説も同様ですけれどね。