名物」てな言い方をしますとまた食べ物の話かと想像されるやもしれませんですが、
さにあらずなのでありまして。


先に特別展で甲冑と変わり兜を見たことに触れました岡山県立博物館
その常設展示を見てのお話でありますよ。


いずこも同じとは思いますが、県立やあるいはもそっと小さく市町村立などもそうですが、
そうしたところの博物館・資料館の類いは多分にお国自慢の要素が詰まっておりますな。


もちろんそれがいけないわけではありませんで、
紹介の仕方によってはいささか鼻につくこともないではないところながら、
細かいところで「ほお、そうだったの?」的なものに出くわすこともあり、
それはそれで興味深かったりするのですね。


で、岡山県立博物館の展示はかような岡山自慢の展示が並んでいたりもするという。
まずもって、いささか甲冑とも縁があるところですけれど、刀剣でありますね。
日本刀です。


日本刀を美術工芸品として愛でることもあり、それ専門の博物館があったりもするわけですが、
時代劇で「人斬り包丁」などとも呼ばれて武器であることに間違いない代物だけに
どこぞで展示品と向き合っても何となく通り過ぎるばかりでいたところです。


が、そんな関心の薄い者でも知っているのが「備前長船」という名前。
本来的には刀匠の名かもしれませんですが、そのまま刀のことをも指しておりましょう。
その「備前」というのが岡山県(東南部)でありますな。


ちなみに備前というのは律令制で定められた国名ですけれど、
それ以前は備前、備中、備後、美作をひっくるめた大きな領域を持つ吉備国だったという。
(それに由来するのですから、きびだんごはなかなかの由緒となりましょうか)
吉備国の豪族・吉備氏の一族から出たのが遣唐使にも派遣された学者の吉備真備であると。


と余談に流れ始めましたが、

日本刀作りで長船派と呼ばれる刀匠の系譜は鎌倉時代から続く由緒であるとか。

そんな由緒を解説で説明されてはいつになく日本刀にも目を向けたですが、

なるほど焼き入れによる刃文にもいろいろあるものだな…てなふうには思いましたが、

どうも愛でる域にはなかなか達しませんなあ。


さて、これまた別の岡山自慢の品ということになりますと焼き物、備前焼であるような。

大陸や朝鮮半島からの渡来人によってもたらされた焼き物の技術伝播が始まりとは

これまた大した由緒。瀬戸、常滑、信楽などと並んで、中世以来続く六古窯と呼ばれるそうな。


釉薬を全く用いないという無骨さ、素朴さは独特の味わいだなと(磁器より陶器派だけに)

しみじみ感じ入りましたけれど、これも律令以前に吉備国という大きな国であったことが

渡来人を集めることにもなったのだなと、ここでも学習が進むのでありました。


こうした素朴さを脈々と伝える一方で、

先ごろTV東京「美の巨人たち」で並河靖之の七宝焼の皿が取り上げられた際に紹介された

「明治の超絶技巧」。その担い手の一人が正阿弥勝義、岡山ゆかりの金工家ということで。

そういえば、正阿弥勝義の作品自体、以前「美の巨人たち」で取り上げられておりましたっけ。


もそっと身近な工芸品ということでは、花茣蓙作りが有名らしいですね。

毛氈などに比べると「茣蓙は茣蓙でしょ」と思ってしまいがちながら、

手の込んだ品は絵柄の浮かび上がりようはもはやタペストリーかと見紛うような。

これもまた古い古い時代に大陸伝来ということでありますよ。


と、そんなこんなで「岡山なんだ…」と認識を深めていったわけですが、

それにしても古い歴史を持ちながらアピールしきれていないのは

「岡山」という地名では由緒が伝わらないということでもありましょうか。


だからといって吉備を持ち出すのか良いのかはわかりませんけれど、場合によっては

(岡山に限らずですが)県名を変えてみるてな挙に出る都道府県の先駆けになったら…と

俄か岡山通の気もしてきたところで考えたりしたのでありました。