先々週でしたか、Eテレ「にっぽんの芸能」では

坂東玉三郎 の特集企画が放送されておりましたですねえ。


人間国宝・坂東玉三郎の芝居につけ、舞踊につけ、その妙技に感じ入っておることは

しばし記していることながら、番組で取り上げられていた「京鹿子娘道成寺」にもまた。


個人的にはかなりの歳を重ねてようやく歌舞伎の妙味にたどりつき、

分けても舞踊の方はほんの最近になって目を開かれた感のあるところながら、

そんな素人目で見ても全くもって目の離せないという状況になるのでありますよ。

(単に舞踊を見ているときには、うっかりすると飽きてしまっていたりするのですが…)


安珍・清姫伝説を材にして、清姫の亡霊が取りついた白拍子の花子が

道成寺の境内で舞を披露する中、因縁ある鐘に目がとまるや、

花子の内にいる清姫が顔つきに、しぐさにちらりと現われ出て来るあたり、

鳥肌もの(いろいろな意味で)なのですなあ。


というものを見てしまったがために、

どうしようかなと思ってはいたシネマ歌舞伎を結局見に行ってしまったという。

タイトルは「京鹿子娘五人道成寺」、花子の舞を5人で踊るものでありましょう。


シネマ歌舞伎「京鹿子娘五人道成寺/二人椀久」


昨年、やはりシネマ歌舞伎で見た「二人藤娘 」でも

本来的には一人で舞うところを派手やかさ、華やかさを演出すべく

二人踊りで見せてましたが、こちらは何と五人の花子が舞い競うという。

賑々しさを楽しみする歌舞伎好きもおられるのでしょうなあ。


玉三郎を中心に中村勘九郎、中村七之助、中村梅枝、中村児太郎という面々が

舞台での人数の取り合わせもさまざまに舞いを披露していくのでありますよ。


シネマ歌舞伎ならではなのは(METライブでの休憩時間にもあるように)

途中途中に幕裏の衣装替えのようすを映し出してみたり、

公演に臨む出演者たちのインタビューが挟みこまれたりするところですが、

そこで玉三郎の踊りについて他の出演者たちが語るのを聞き、

「そうなんだよなあ」との思いが。


ようするに、玉三郎は花子を演じているのではなくして、花子になっているのだということ。

花子の役にはこれこれこういう振付の踊りがあって、それを踊っているのではなく、

そこで踊っているのは花子なのであるから、演技ではない花子の、ひいては内に潜む清姫の

心情が自然と表れ出てくる舞いなのだということなのですなあ。


こうなってきますともはや舞踊の巧拙といった問題ではないわけで、

またそういう視点で見てしまいますと俄然、玉三郎の舞いだけが際立って見えてもしまうという。


ですから、華やかな舞台であるということには間違いなく、

それをそれとして楽しまれる方も多かろうとは思うところながら、

やはり(先の番組でのVTRのように)玉三郎ひとりによる「娘道成寺」が見たくなるのですなあ。

(その点では、同時上映の「二人椀久」の方が堪能できるという気も)


とはいえ、人間国宝が後輩たちと舞台を共にすることは

やがて玉三郎の芸の継承という点では大きなものがあるのでしょう。

他の出演者たちも皆一様に意識していることですし。

ただ、相当に難しい道なのでしょうけれど。


とまれ、個人的におそまきながらとはいえ、

かような芸があるのだということに気付くことができたことは幸いなるかなと

しみじみ思う今日この頃なのでありますよ。


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