アガサ・クリスティー のミステリーなどでも見かけたような気がするのですが、

イギリスものにはよく「クラレット」というお酒の名前が登場しますですね。


翻訳小説を読むときに、文化的背景の異なっている日本にあって

日本語でもってよその国のことを知ろうとすれば、そのまんまの置き換えでは

説明しつくせないことに多々出くわすわけです。


ちと大袈裟にしてしまいましたけれど、お酒の名前などの場合には

「ああ、お酒なのだな、どんなのかはよく分からんけど…」で済ませられないこともない。

もちろん、作者としてはそのお酒を出してくることに、雰囲気だか何だかにせよ、

意図があってのこととすれば、それを読み飛ばしている状態にはなりますけれど。


今でこそ、気になった言葉に出くわしたときには「すぐさま検索」の可能な世になってますが、

かつてミステリーを読み漁った何十年か前にはそんな便利さは想像もつなかいものでしたから、

大勢に影響無しとしてほったらかし、気にせず読み進んでしまっていたのですなあ。


ところで「クラレット」ですが、これがざっくり言ってボルドー産の赤ワインのことと知ったのは

ずいぶんと後のことでありました。

ですが、そのボルドー産の赤ワインに何だって英語で「クラレット」という呼び名があるのか、

そしてやたらに「クラレット」が登場するのか…という辺りにまでは踏み込んでおらなかったという。


ではこれから「クラレット」の話になるのかと申しますれば、そうでもない。

もうひとつ、これまた英語名でよく知られたお酒に「シェリー」というのがある。

これも考えてみれば、「クラレット」同様のなぜ?が浮かぶわけですけれど、

差し当たりなぜシェリーの話が出てきたのかは、「ゆらり散歩 世界の街角 」なる紀行番組で

ヘレス・デ・ラ・フロンテーラという町を取り上げているのを見たからなのですね。


「ヘレスなんたらっていったいどこ?」というほどに知らない町であったわけですが、

スペイン南部にあって、どうやらシェリー酒のふるさとと言えるような町だったのですなあ。

何しろ、英語で「シェリー」となるお酒がスペインでは「ヴィーノ・デ・ヘレス」、

ヘレスのワインと呼ばれているというのですから。


「シェリー」というともっぱら食前酒として有名ですけれど、

映し出されるヘレスの町のようすを見る限り、どうも朝から晩までどこかしらで飲まれているような。

単なる外向けの商売として作られているのでなくして、基本的に地産地消の産物であるようで。


では、それが何だって英語の「シェリー」と呼ばれて一般化しているのかということになりますが、

なんとまあ、ここに至って「クラレット」のなぜと関わりを持ってくるのですなあ。


1154年、アンジュー伯アンリがイングランド王位を継いでプランタジネット朝が始まりますが、

フランス本土にも領地を持っていたのですな。それがボルドーを含むアキテーヌ地方だったわけで。


ボルドーのワインは以前あった国立西洋美術館ボルドー展 で触れられていたとおり、

長い歴史と伝統あるもの。これが同じ国扱いでどんどんイングランドに入ってくるのですから、

ボルドー産の赤ワインを英語名「クラレット」と呼び習わすくらいに普及するのも当然であったかと。


ところが、百年戦争 だなんだかんだでイングランドは

そう簡単に「クラレット」を手に入れられなくなってしまいますね。

となると「代りの酒をもってこい!」ではありませんが、フランスがダメならと

目をつけたのがスペインであったそうな。


ヘンリー8世も初めスペインから王妃を迎えたり、また娘をフェリペ2世に嫁がせたりと

いっときはスペインと仲良し路線をとったりしますけれど、ここに至るまでの中で

ヘレス産のワインが入ってくることになっていったようで。


ちなみにエリザベス1世 の時代にはスペインと争うことになり、

無敵艦隊 を撃破するなんつうことにもなりますが、

この艦隊が積んでいたという大量のワインをごっそり持ち込んだりもしたのだとか。

これが英語名称「シェリー」と呼ばれるようになるワインだったのですなあ。


とまあ、そんなこんなの歴史に絡む「シェリー」ですけれど、

先に食前酒として有名と書いたからにはどこかしらでまさに食前酒として飲んだかもながら、

自覚的には飲んだことがあると言い切ることもできず…。

 

だもんですから、飲んでみることにしたのでありますよ。日本で簡単に手に入るのは、

本場へレスでも老舗のボデガ(シェリー酒の酒蔵のような意か)であるゴンサレス・ビアス社の

「ティオペペ」、これを買ってきたのでありまして。


ゴンザレス・ビアス ティオ・ペペ 750ml/ゴンザレス・ビアス

ポート・ワイン、マデイラ・ワインと並ぶ酒精強化ワインのひとつとされるだけに

アルコール度数の低いタイプでも15度くらいですが、その度数の点以上に香りが強く独特ですね。


癖があるとまでは言いませんが、ちょっと薬用酒(養命酒?)のような感じも。

飲み口としては、普通のワインに擬えるならばエクストラ・ドライといったふうでしょうか。

ですから、シーフードと合わせるならばぴったりくるのかもしれませんですね。

ということで、またひとつ社会経験?を積んだのでありました。


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