東京・六本木の国立新美術館 で「ヴェネツィア・ルネサンスの巨匠たち」展を見てきました。
アカデミア美術館の所蔵作品を集めた展覧会ということであります。


「ヴェネツィア・ルネサンスの巨匠たち」展@国立新美術館


これまでヴェネツィア には2度行っておりながら、

当時は美術関係への興味がまだ盛り上がっておらず、
また一人できままにあちこち覗ける旅の形でも無かったことから、

アカデミア美術館に一度も足を踏み入れておらないという。
展示作品を見るにつけ、惜しいことをしたものだと思ってしまいますなあ。


だもんですから、そもナポレオン によるヴェネツィア占領下の改革計画の一環として
アカデミア美術館ができた…てなことはつゆ知らず。
美術館の成り立ちにもいろいろあるものですよね。


ところで、展示作品はそんな上ものの整備よりも遥かに遡って、
フィレンツェよりは少々遅れたにもせよ、1440年頃に始まった

ヴェネツィア・ルネサンスの作品を集めてあるのですなあ。


で、まずもって目を引くのはのっけの展示であるジョヴァンニ・ベッリーニの
「赤い智天使の聖母」(1485-90年)でありましょう。フライヤーに使われているものです。


先頃「天使とは何か」 を読んだだけに、
聖母子を見下ろす智天使ケルビムの姿がプットーとして描かれているのも
ルネサンスらしいところなのだろうと思ったりするわけです。


ちょいと進んでアントニオ・デ・サリバによる「受胎告知の聖母」(1480-90年頃)は
珍しい図像なのではないですかね、もしかして。


アントニオ・デ・サリバ「受胎告知の聖母」

一般に「受胎告知」は、聖母(となる)マリアと大天使ガブリエルが対峙する形で描かれて、
マリアの姿、表情からは驚き、おそれおののきが見て取れるてなふうでもあろうかと。
ですが、ここではマリアひとりのクローズアップが描かれていて、
どうやら大天使ガブリエルの役回りはこの絵と向かい合う鑑賞者に振られているのだとか。


こうした描き方は見たことないなあ(と乏しい鑑賞経験ではありますが)と思ったですが、
程なくマレスカルコに帰属するとされる「受胎告知の聖母」(1490-1500年)を見ることになり、
やはりマリア(こちらは背景付き全身像ですが)は単独で描かれている。

決してメジャーではないとしても、こうした図像もあったのですなあ。

宗教画とはいえ、いささか仕掛け物っぽく思われますけれど、
絵画を単に芸術としてだけ考えるのとは違うあり方が生まれていたのやもしれませんですね。


歩を進めて時代もやや下ると、16世紀前半に訪れたというヴェネツィア絵画の黄金時代、
担うのはティツィアーノでありますよ。


サン・サルヴァドール聖堂の祭壇画であるという高さ410cm×幅240cmの大作「受胎告知」は
本展の目玉のひとつとされていて、確かに「おお!」と思うところながら
個人的にはティツィアーノで目を向けたは「アルベルティーニの聖母」(1560年頃)の方。


ティツィアーノ「アルベルティーニの聖母」(部分)

聖母子を描いて、後にイエスが見舞われる試練を暗示する何かしらを描きこむことは
ままあることではありますが、ここまで不穏な雰囲気に包まれた姿で描くか…と思ったり。


ところで、ここまでのところでも「受胎告知」をテーマとする絵が多くあったわけですが、
なんでも伝承によりますと、ヴェネツィアの建国は紀元421年3月25日とされており、
この3月25日が受胎告知の祝日であることの繋がり故であるそうな。


こうした関わりは自ずとマリア信仰にも繋がっていくのでしょうか、
ヴェロネーゼ描くところの「レパントの海戦の寓意」(1572-73年頃)には
聖母マリアに向かって戦勝を祈願するという形になっていると言いますし。


ヴェロネーゼ「レパントの海戦の寓意」

…と長くなってきてますので端折り気味に進んでいきますと、
最後のコーナーは「ルネサンスの終焉」ということに。
そうした流れの中でパドヴァニーノの「死せるキリストと3人の天使」(1620年頃)を見ると
じわっとくるドラマティックさからもバロックだな…と時代の移り変わりを感じるような。


てなわけで、沈んでしまわないうちに今一度ヴェネツィアにも行かねばいけんな…と
思ってしまう展覧会でありました。


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