これまたなんとはなしにDiscovery Channelの「メガ・シティ」という番組を見ていたですが、
番組紹介に曰く「世界中の街を支えるインフラや、街整備の秘密を徹底調査」という内容。
「メガ・シティ」との邦題からすると、単に大都市を取り上げているだけとしか思えないながら、
原題は「Strip the city」で、文字通りに町の地盤をへっぺがして見せてくれたりするのありますよ。
で、たまたまヴェネツィア編とパリ編とを見てみましたら、
ふたつの都市には思わぬ共通点があるのだなと思ったのですね。
芸術とか歴史とかそういう方面ではなくして、です。
ヴェネツィアはご存知のように海に浮かんだ街ですけれど、
元々湿地帯であるところに建物をばんばん建ててあるわけです。
地盤が緩いために、本土から切り出した木材の杭を数限りなく打ちこんで
基礎の強化を図っているものの、何百年と経つうちには劣化もしてきましょうし、
何しろ上ものが石造りですから沈下もしてくるという。
そうしたところへ「アックア・アルタ」と言われる高潮が襲いかかれば
地盤の部分は水没し、あたかも水上ににょきにょきビルが建っているかのよう。
対策としては個々の建物を補修することはもとより、
高潮自体を街に近付けないという大胆な作戦が講じられているというのですね。
早い話が防波堤で囲ってしまおうというものですが、
完全に囲ってしまっては水上交通での出入りができなくなってしまう。
そこで現在進行形で設置が進められている防波堤というのがですね、
普段潮位が高くないときには海底に沈んでおり、
いざ「高潮がくるぞぉ~!」となったときに浮力を得て浮き上がり、
高潮の浸入を防ぎとめる…というものなのだとか。
海底にはアンカーで固定されていますが、浮き上がる部分は蝶番で止めてある感じ。
この部分は仲が空洞になっていて、いざというとき空気を入れて浮かびあがるんだそうですよ。
「モーゼ・プロジェクト」というネーミングも含めて、すごいことを考えつくものですなぁ。
というのがヴェネツィアの話で、まあ、ヴェネツィアの高潮問題はよく知られていますけれど、
さて、パリのお話です。
いったいどこが似ているのかということなんですが、
実はパリ市街も地盤に不安定要素を抱えており、
建物を造る際にはヴェネツィア同様にやはりバンバン杭を打ち込まないとならないのだそうです。
で、それはなぜか?
パリ市街の地下には石灰岩の層があって、これを昔から建築資材(大理石ですな)とすべく、
掘って掘って掘りまくったのだとか。
つまり地下を空洞にして、立派な上モノを作り上げた感じでしょうか。
当然に坑道にはつっかい棒(石の柱)がしてあるものの、
長い年月のうちにはクラックが入っていたりするものがあり、
地盤沈下どころか、ともするとごそっと崩落する虞無きにしもあらずと、
日常的な点検が欠かせないのだそうでありますよ。
パリがヴェネツィアと似ているというのは、
この杭を打ち込んで…というところだけではないのでして、
もうひとつ、水没の危険性ということもあるのですなあ。
もちろん地勢的に海に沈むという話ではありませんけれど、
たっぷりとした地下水脈を抱えていて、豪雨なんかの際にはじわじわ地表に湧きだしてくるという。
これがセーヌ川の放水能力を超えてくると、まさにそこらじゅうが水浸しになるわけですね。
ま、この辺りのことは以前「パリが沈んだ日」という本で読んでもいて、
それでオペラ座の地下には本当に湖ならぬ貯水池があることを知ったのですが、
下手に掘り返すと水が噴き出してくると、まるで大清水トンネルの工事のようではないかと。
ただ今回の番組で、貯水池の機能は溜めた水の重さで地下水の湧出を防いでいるという、
俄かに得心してよいのか迷うような話が紹介されてました。
とまれ、ヴェネツィアに行こうというときは、
もしかするとサンマルコ広場を木道を伝って歩かないとならないかも…なんつう装丁もしますが、
パリに行くときにも、街中でいつ何時地盤の崩落が起こるかもしれず、
また悪天候が続けば大洪水が起こる可能性もあることをちらりと覚えておいた方がいいかも。
しっかり対策は施されてはいるようですけれども…。