「レイルウェイ 運命の旅路」という映画を見たのでありますよ。
タイトルとDVDの写真だけからすると、
どうも恋愛もののようにも思えてしまうところではなかろうかと。
原題は「Railway man」ですが、これはこれで鉄道オタクの物語?と思えなくもない。
主人公のエリック(コリン・ファース
)は根っからかなりの鉄道好きと見えて、
時刻表を読み込む姿なんぞも現われたりしますので、あながちハズレてもいないよう。
ですが、そんな主人公ながらよもや鉄道建設現場で働かされることになるとは
ゆめゆめ思いもしませんでしたでしょうし、しかも環境が極めて苛酷な状況であるとは。
太平洋戦争
は日本の海軍がパールハーバーを攻撃して始まったとばかり思いがちですけれど、
同時にマレーシア(当時は英領マラヤ)にも侵攻を開始、北部東海岸のコタバルに上陸して、
銀輪部隊といわれた自転車軍団がマレー半島を一気に南下していったのですな。
開戦から2ヵ月余りでシンガポールを陥落させますが、
このとき日本軍司令官の山下が英将パーシヴァルに対して
「イエスかノーか」と降伏を迫った話は有名でありますね。
ところで、本作の主人公であるエリックは
通信兵としてシンガポールに駐留していて、捕虜になったわけです。
マレー鉄道の貨車に載せられて半島を縦断、
連れてこられたのは泰緬鉄道の建設現場でありました。
兵員や物資輸送のためでしょうか、タイとミャンマー(当時はビルマ)とを繋ぐ鉄道で、
途中に通るクワイ河鉄橋が映画「戦場にかける橋」で夙に知られていようかと。
捕虜となった兵士や民間人に鉄道建設の強制労働をさせたことで悪名高く、
映画の中でも過酷な扱いが映し出されていたのではなかったと思いますが、
これは原作者であるフランスの小説家ピエール・ブール(「猿の惑星」の原作者として知られる)が
戦時中インドシナいたらしいブール本人の実体験でもあるのだとか。
ですから、そういうこともあったろうとは言えるものの泰緬鉄道の建設現場でというわけではない。
引いては泰緬鉄道の建設現場の様子が原作・映画の通りではない…とも言えましょうか。
原作には当たっていませんけれど、映画では日本軍側の早川雪洲と英軍側のアレック・ギネスに
将校どうしの友情のようなものが仄見える気もするところながら、本当のところははて。
実は過酷さを描いて手ぬるいということなのかもしれません。
翻って本作ですが、エリックは掻き集めた部品部品でもって
通信兵としての持ち前の技術でもって手作りしたラジオ受信機が日本軍に
送受信のできる通信機と受け取られたことから、スパイ容疑で拷問を受けることに。
やがて日本の敗戦で何とか生き長らえて故国にたどり着くも、
その後の人生はトラウマに悩まされ続ける毎日になってしまったのですね。
そんなある日に、
かつての戦場でエリックの拷問に立ち会った通訳の憲兵ナガセ(真田広之)が今でも生きており、
カンチャナブリ(泰緬鉄道の例の鉄橋の近く)で観光ガイドをしているとの情報が
戦友(ステラン・スカルスガルド)から持ち込まれてくる。
迷いに迷い、悩みに悩むも、カンチャナブリへと旅立つエリック。
ガイドを終えてひとりになったナガセと正面から向き合ったのでありました。
この時の対話は、
あたかも拷問のときの詰問する側とされる側が入れ替わったふうなのですけれど、
ここで肝心なやりとりが出てきます。
エリックはナガセに向かって「一人称で語る」ことを強硬に求めるのでありますよ。
前非を悔いて「我々は間違っていた」と語るナガセに、一人称を求める。
「お前たちではない。お前はどうなんだ!」というわけです。
戦争という状況において、確かに日本という国に間違いがあった。
それが分かる(その時には分かるようになっていた…かも)ナガセは
「我々は」と言ってしまうのですが、改めて「お前個人はどうなんだ」と問われるのは厳しいですね。
もちろん個人としてもその状況下で「間違っていた」わけですが、
根っからの個人の人間性からしてやったことではないというエクスキューズを抱えがちなのが
人間の弱いところでもあろうかと。実にキツいやりとりであったなと思います。
ナガセの肩を持つわけではありませんが、
彼自身は「憲兵隊の通訳」であって拷問そのものに手を下してはいない。
ところがエリックの側では「通訳の憲兵」と見ており、
憲兵隊であることに何らの代わりはないと考えている。
ナガセのような立場であっても、時の勢いを笠に着て「通訳の憲兵」になってしまうという
人間の弱さを露呈していまっていた人も現実にはいたでしょうし。
とまれ、ナガセがカンチャナブリにいるのは観光ガイドという以上に巡礼であり、
ここでの出来事を弱い人間がしでかしてしまったこととして語り継ぐ必要性を感じてのことと
エリックも受り止め、二人は和解し、その後の長きに渡って交流を続けたのだという。
実話ベースのお話であります。
ここから考えることは、
上っ面を繕うだけでは「和解」に至ることはできないということでもありますね。
長い年月を経てしまえば、人の脳には忘却という機能もあると考えるところもありましょうけれど、
むしろ長引かせると反ってこじれるところがありましょう。
真摯に向き合うことが必要であったのに…。
ところで、冒頭にタイトルとDVDの写真だけでは恋愛ものにも見えるかもと言いましたですが、
そのお相手となるニコール・キッドマン
のことにちいとも触れませんでした。
この登場人物もまた実話ベースであるかは分かりませんけれど、
話に深みを増す存在ではあったろうかと。
どのような絡みであるかはご覧になってのお楽しみということでご容赦を。
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