ちょいと前にLIXILギャラリーで「鉄道遺構再発見 」なる展示を見たときに
いささかくくっと来るところがあったりしたこともありまして、
書名を見てついつい手にとってしまった中公新書の一冊。
タイトルは「廃線紀行-もうひとつの鉄道旅」というものでありました。


カラー版 廃線紀行―もうひとつの鉄道旅 (中公新書)/梯 久美子


世の中には廃墟マニア、廃道 マニアとさまざまな「廃」に萌える方々がおいでのようですから、
廃線マニアがいても別段不思議はない。
というよりも、他の「廃なんとか」に比べて歴史的?にも潜在数の規模的にも
メジャーな存在なのかもしれませんけれど。


本書はかつて新聞に連載されたコラムをまとめたものということですので、
マニア度合いの高いディープなものではなくして、
これまであまり気にも留めてこなかったような人びとに向けて
「廃線歩きには、こんな楽しみがありますよ」と紹介しているもの。


以前にも触れたことがありますが、
ずいぶんと前に何やらの講演で日本レクリエーション協会の方が言っていたように
定年後に趣味を持たない人は早死にする(乱暴に言えばですが)てなことだそうで。


あれこれ趣味を持っている人にとっては「そんな人、いるの?」と思えましょうけれど、
無趣味の人というのは確かにいる(週末に何してた?と聞くと「何も…」と返ってくる)わけで、
新聞、雑誌、TV等、さまざまなメディアを通じて「こんな面白いこと、ありますよ」という情報が
山のように、というより滝のように流されてますですね。


ですが、そうした「面白いこと」にぴくんとするのは本来のターゲット?たる無趣味人ではなくして、
わざわざ「面白いこと」を教えてもらわないうちからすでに趣味人であるような人たちなのかも。
かくして無趣味の人はとことん無趣味で(そのライフスタイルが否定されるものではありませんが)
趣味人はさらに趣味が増えていく…てなことになりましょうかね。


と、話はすっかり脇道に入り込んでしまいましたが、廃線の話なだけに軌道修正。
とにかく日本各地に数ある廃線区間から50箇所を選んで、
それぞれを訪ねて出会うお楽しみの一端を紹介しているのでありました。


廃線らしさが一番濃厚なのは枕木もレールもそのままになっているところでしょうけれど、
なかなかそういう状態のままとはいかないようで、遊歩道のように整備されているところが多いようす。
枕木歩きよりは格段に歩きやすいものの、整備の際に鉄道があった痕跡を
根こそぎにしてしまうケースもあり、廃線マニアには反って喜ばれない側面もあるようですな。


かつて鉄道が走っていたことに思いを馳せつつ、その場所に佇む…ああ、感無量…てな思いは、
やはり痕跡を目にすることで弥増すものでありましょうから、むべなるかな。


しかし、個人的には「鉄道遺構再発見」展で遺構の写真を見てくくっと来たことからすれば、
素質ありかも?と思っていたものの、読み進むにつれて「どうもこの人たちとは違う…」という思いに
たどりついたのでありました。


本書で紹介される遺構のひとつに、
JR中央本線の甲斐大和駅・勝沼ぶどう郷駅間を結ぶ大日影トンネル がありましたけれど、
トンネルを前にして著者は、古びた煉瓦の赤、苔むした緑、

そしてかつては蒸気機関車の通過が残した煤による黒、
この色彩を愛でていたりする。なるほど「萌え」の状態でもあろうかと。


たまたまにもせよ、今年の4月に大日影トンネルを訪ねて通り抜けることをしましたが、
「萌え」を感じるというよりは、このトンネルに関わるあれこれの歴史の側面に

思いを馳せていたというのが、その時の自分の姿であったものですから。
中央本線開通の歴史、物流の歴史、運び出されるぶどうの栽培の歴史、

ワイン醸造の歴史 などなどなどに関して。


こうしたことに気付いてみれば、近い方向性を指向することがあっても
全くぴったりにはならないなあと思ったのでありますよ。


読み始めるときには

「紹介されているところ全部に行きたい気分が盛り上がってしまったら何としよう」と
いささかの心配もしたですが、どうやら杞憂であったようで。


それでも、1987年に廃止された国鉄佐賀線の

筑後川橋梁はかねがね実物をこの目で見たいと思っていたりするので、
もしかすると「橋萌え」だったりするのかもしれませぬ…(笑)。


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