東京・京橋のLIXILギャラリー で開催中の「鉄道遺構再発見」という企画展を覗いてみたのでありますよ。
もしかして「廃線マニア垂涎の?」と思ったところ、どうやらそうではないようで。


「鉄道遺構再発見」展@LIXILギャラリー


展示対象は「廃線路になった後も新たな価値を付加された鉄道遺構」であって、

14件を厳選してある由。


廃線跡がお好きな方というのは、レールも枕木も残ってはいないところに伸びている土盛りや

駅舎があったのであろうというあたりの名残りを見つけて往時に思いを馳せるてなことに
ロマン?を感じるのやもしれませんですが、ここでは何らかの形で再利用されていることが前提です。


いちばん分かりやすいのは、観光利用でありましょうか。
典型的な具体例としては旧国鉄の足尾線。
元々は足尾銅山から産出される銅を運び出すために敷かれたもので、
何でも電気鉄道としては日本初のものだというのですね。


それが1987年の国鉄分割民営化にあたって廃止されたものの、
今や「わたらせ渓谷鉄道」という観光路線として復活しているわけです。


となると、すこしも「遺構」の部類ではないのではと思うところですが、
銅を輸送するために必要とされた路線と現在の観光路線はイコールではなく、
観光には不要の部分はまさに「遺構」。


これはこれで観光対象になったりするのかもしれませんが、
どうもこの路線に関しては、田中正造 という人物のことを知るほどに「どうよ…」と思ってしまい…。

ですが、現在は観光をこそなりわいとしている方々もおられるとなれば、
一概に「どうよ…」と思うだけではいけんところもあるとは思うのですけれど。

田中正造記念館 の方にも、足尾には行って「見て」くださいと言われましたんですが…)


旧国鉄足尾線の橋梁


ちなみに旧足尾線沿線は「橋の展示場」とも言われるほどに、
さまざまな鉄道橋梁が残されているのだそうです。


で、わざわざ熊本通潤橋 を見に行ったものが言うことではありませんが、
どうやら「橋」にも魅力を感じる方々がおるようで、足尾のように観光鉄道を走らせることはないにせよ、
積極的に古い橋梁を風景のアクセントとして残して、観光に資するようなところもあるようで。
例えばこの旧国鉄士幌線のコンクリートアーチ橋がそうですね。


上の案内ハガキに使われているものが旧士幌線橋梁のひとつですけれど、
大袈裟に言えば古代ローマ の廃墟としてユベール・ロベールが描きそうな雰囲気があるような。


旧士幌線橋梁


そして、こちらもやはり古代ローマの水道橋が保存されているのと同じような気がしてきますですね。
歴史的な年月は全く比べ物にならないのですけれど。


ですが取り分けてこの橋は、糠平ダムの建設によって水没することになった士幌線の一部区間にあり、
季節によって変わるダムの水位によってその姿が見え隠れするというレアものなのだそうですよ。
(ちと行ってみたい気がむくむくと…笑)


と、全く異なる再利用としては、かつて横浜港の港湾施設として敷かれていた路線(横浜臨港線)。
今や遊歩道になっていて、これは山下公園の近くということなんですが、こんなのあったんですなあ。


横浜臨港線跡


そして、遊歩道としての利用にプラスして、さらに異色の利用法として紹介されていたのが、
この春に訪ねたばかり、山梨県の勝沼 にある大日影トンネル・深沢トンネル でありまして。


中央本線旧大日影トンネル


大日影トンネルは片道30分ほどで通り抜けられる遊歩道(と言っても見晴らしも何もありませんが)で
その先にある深沢トンネルの方はワインカーヴとして使われているのですね。
いかにもお土地柄らしい有効活用の方法ではなかろうかと。


展示は他にもあるわけですが、
ちとここで会場入口のところにあった「ごあいさつ」にちと立ち戻ってみることに。
明治5年(1872年)に初めて日本に鉄道が開通して後、
日本中に線路が敷かれていったことを振り返って、こんなふうにあったのですね。

様々な地理的条件を克服しながら、山にトンネルを通し、河川に橋をかけるなど、レールを繋ぐ創意工夫は「道なき場所」に鉄道を通す技術の結晶であり、それぞれの場所や地域に合わせてデザインされた創造的叡智ともいえます。

♪今は山なか今は浜 今は鉄橋渡るぞと思う間もなくトンネルの闇を通って広野原

前にも書いたことがあったですが、何となく歌っていたこの童謡の歌詞は、
あれよと言う間にめまぐるしく移り変わる日本の風景を端的に映し出したものであるような。


それだけ日本の国土には多様な環境がぐぐっと詰め込まれているわけですけれど、
単純にトンネルだ、橋だと言うものの、その全ては立地を考慮したオーダーメイドであって、
決してレディメイドはないのですものね。


スクラップアンドビルドを繰り返すだけでない価値を認めて活かすといったことは
もっとあっていいのかもしれませんですなあ。



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