タイムスリップもの なんだろうなぁ、タイトルからして…」

そんな印象だけで誰がでるのか、どんな話なのかも知らずに(とは、例によってですが)

ぼんやり見たのが「幕末高校生」という映画でありました。


幕末高校生 DVD通常版/玉木宏,石原さとみ,柄本時生


何となくそれなりの理由があって、「それでタイムスリップしてしまったのか…」と思わせるような

SF らしさを残している「タイムスリップもの」もありますけれど、

これはタイムスリップしてしまう事実ありき(「テルマエ・ロマエ 」なんかもそうですね)。

ですから、あんまり丹念に?見てしまうと粗探しになってしまいますので、文字どおりにぼんやりと。


話として確かに高校生が現代から幕末にタイムスリップしてしまうものの、

彼らの担任である教師(石原さとみ・・・)も同時に幕末へ。

そして、主に動きまわるのもこの教師ですから「幕末高校教師」が正確かもですね。


ただ、この教師がダメダメで、というより「これじゃあ生徒がかわいそうだろ…」と。

幕末へ移行する以前の日常を描く場面で「こりゃ、ひどい」と思いましたけれど、

実際後から生徒から「あんたはおれらの教師にもなってない」的に全否定されてしまいますし。


まあ、教師も高校生も幕末という異世界を経験することで、

ひと回りもふた回りも大きくなりましたとさ、めでたしめでたし…というビルドゥング要素が

単なる娯楽作ではないけんねと装ってますけど、必ずしも成功していないような。


とまれ、幕末とひと口に言いますが、

たどり着いたのは官軍が錦の御旗を押し立てて江戸へ、江戸へと攻め来る最中。

歴史を思い起こせば、江戸城は無血開城、大きな戦火は起こらない…はずが

その立役者たる勝海舟(玉木宏)が何もしないでのらくらのらくらしている。


ですから、勝の使者として山岡鉄舟駿府 に乗り込み、

西郷隆盛 と事前の談判に及ぶなどということは映画の中では起こらないのですな。


そうでありながら、最終的には三田の薩摩藩邸で西郷と会見するわけですが、

これに先立って「万一、不首尾の場合には…」とある人物に後事を頼むのでありますね。


その作戦とは「江戸が戦場となるようなら、町中に火をつけてしまえ!」ということですが、

何だか破れかぶれな感があるも実際には焦土作戦。

(数多の舟を仕立てて、江戸市民の逃走手段は確保したようですが…)


しかしまあ、勝が頼んだ相手というのが

火消しの大親分、新門辰五郎(山崎銀之丞)だというのですから、

親分も驚いたでしょうね。「火消しが火付けか?!」と。


と、ここがこの映画でいちばんの見せ場ではないかと個人的に思うところですが、

この新門辰五郎という大親分であります。


比較的最近ではTVドラマの「仁」にも中村敦夫が演じて登場してましたけれど、

江戸っ子の代表選手みたいな気風の良さですなあ。


と、芝居や歌舞伎でもまま取り上げられるこの人物に改めて目が向いたものですから、

読んでみたのが「幕末辰五郎伝」なのでありました(映画の話はどこへやら…)。


幕末辰五郎伝/半藤 一利


知らないこととはいえ、一読していやあ驚いた。
「火事と喧嘩は江戸の華」と言われますが

(一説には「江戸の恥」だったのが、江戸っ子が「てやんでぇ!」と「華」に代えたとか)、
その華の片方を相手に我が身の危険も顧みず、火事場に踏み込んでいく火消しの、

中でも大親分ともなりますと、何百人もの手下を使い、

道を歩けば江戸市中にその顔を知らぬ者なしの存在でもあったような。


侠客と聞けば、何となく「やくざか?…」と思ってしまいますが、
弱きを助け、強きを挫く男気を見せながら、

辰五郎親分はおよそ博打に手を出すことはなかったのだとか。


そんな辰五郎親分のことで何よりのびっくりは、一橋慶喜 との関わりでありましょうね。
次期将軍、次期将軍と言われながらも、生家である水戸徳川家と将軍家との折り合いの悪さから
なかなかに陽の目を見ることのない慶喜と辰五郎の親交は親子並みに歳の離れた間柄なだけに、
慶喜は辰五郎を親父とも頼み、辰五郎は「わけぇのをほおっちゃおけねえ」と支えるという。


やがて将軍後見職に就いた慶喜が京に上ることになると、
辰五郎親分黙ってはおられず、手下を引き連れて自らも上京、慶喜警護の買って出るのですな。


時の京都は暗雲垂れ込め、情勢は複雑怪奇。
さまざまないわく、思惑を抱えた人物たちが跋扈する中で、
親分には飲み込みにくい世情を新選組 副長・土方歳三と語りあったりもしていたとか。


紆余曲折を得て鳥羽伏見の戦いが始まり、慶喜は大阪から江戸へ船で逃げ帰ってしまう(?)と、
「また弱気の虫が出た」と苦りきりながらも、手下ともども東海道 を駆け通す。


この時、辰五郎の一行は用意の船に乗れる手はずだったのですが、
一目散に逃げ出した幕府側が大阪城に徳川家伝来の馬印の幟を置き忘れ、
「幟ならこっちのもんだ」と敵が寄せ来る大阪城に俄然のり込み奪い返してくる間に
船は出てしまったのだというのですね。
「だらしのねえ、さむれえどもよ」と思ったことでありましょう。


後に江戸は辰五郎らが火付けをすることもなく官軍に明け渡され、
これまた曲折を経て慶喜が駿府預りになると、親分もまた駿府に向かう。
もはや忠義が武家のものとは思われませんですな。


辰五郎は慶喜が京に上る際、その傍にと実の娘を妾に差し出してもいる。
この話の出どこや真意がよく分からないことがあれこれ想像をさせることにもなりますが、
一連の行動からしても慶喜が無理強いして…てなことではないのでしょう。
そんなことでもあれば、この両者の関わりの深さは理解しがたいですから…。


と、映画の話から読んだ本の話へ流れた関係で長くなってしまいましたが、

こういう人だったのですなあ、新門辰五郎という人は。



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