ありそうながらも余り聞いたことのない演奏会というか、イベントというか。
フル・オーケストラによるホルストの組曲「惑星」の演奏と同時に、
舞台奥に設えられた大きなスクリーンには惑星 ごとのクローズアップ映像が映し出され、
各曲の前振りとして説明のナレーションが入るという。
とにかく「惑星」一曲、一点集中の音楽会でありました。
だいたいホルストの組曲「惑星」自体がオーケストラ演奏会のプログラムにのりませんね。
「火星」、「金星」、「水星」、「木星」、「土星」、「天王星」、「海王星」の7曲から成る組曲は、
全曲通せば50分ほどもかかろうかとなれば、メイン・プロとして主役を飾るに相応しいような。
でありながら、あんまり登板機会のない理由のひとつは、
オルガンやらチェレスタやら鐘、そして最後には女声合唱まで動員される大編成が
必要とされるからでもありましょう(今回の演奏でも、女性合唱だけは電子オルガンで代用)。
そしてもうひとつには、終幕に盛り上がりがないことも上げられましょうかね。
かつてLPレコードの時代、A面に「火星」から「木星」までが収められ、
B面に「土星」以降が収録されていましたけれど、俗に「B面ソング」という言葉があるように、
一般にA面に比べてB面が見劣りするのと同様に、(若気の至り的なところも含めて)
A面の「木星」が♪ジャン!と終わると「ああ、いい曲だった」と裏返しもしなかったという。
てな具合でもありますから、実のところ、組曲「惑星」の全曲を
オーケストラの生演奏で聴くこと自体、初めてのことではなかったと思うのですね。
で、映像あり、お話ありの「お子様OK!」の演奏会(さすがに4歳未満はだめでした)で
確かに子供連れも会場にはかなり多かったですけれど、演奏の方は申し分なし。
というか、LPやらCDやらで聴き慣れて、ついつい聴き流してはいるものの、
「生音で聴く『惑星』とはかくも惹き付けられるものであったか」と思いましたですよ。
「火星」の重戦車が彷徨うさまも、「金星」の艶やかさも、そして「水星」の軽やかさも良し。
そして、いささか手垢がつき過ぎかとも思われる「木星」も、
「ジュピター」として有名なメロディーはやはり部分として全体が何と「かっちょええ!」こと。
よくぞホルスト、「木星」を作曲してくれましたと。
ですが、目からウロコならぬ、耳からウロコ(?)としては、やはり「土星」から先でありましょうね。
前半4曲と違って、なかなかに掴みどころの難しい晦渋な曲調になるものの、
映像を見ながら、その惑星の名の由来やら、地球や太陽からの距離、気温、成分といった
諸々の情報をインプットして望みますと、イメージを膨らませやすくなるようです。
皆さまも(例えCDであっても)組曲「惑星」を聴こうと思いましたときには、
太陽系の惑星の写真集などをご覧いただき、説明書きなどにも目を通してからお聴きになると
「土星」以降の眠気の催し方に違いが出るかもしれませんですよ。
ところで、ホルストがこの曲を書いた頃には「冥王星」が発見されていなかったとして、
ひと頃は「冥王星」をそれらしく作り上げて、組曲「惑星」コンプリート・バージョン的な録音が
出たりしたですが、その後はご存知のとおり、冥王星は2006年以来、準惑星に転落。
余計な付け足しなどなく、文字通り太陽系惑星を網羅した組曲となったことで
ホルストも草葉の陰でほっとしておりましょうかね…。
