杉並公会堂が主催する、ピアニストの小山実稚恵さんプロデュース公演、

ピアノ・ソロも室内楽も同時に聴けるという、いずれの分野もビギナーな者には

とってもとっつきやすいといいますか。


以前聴きに行ったときには、

ショパンのピアノ・コンチェルトの室内楽伴奏版なんつう珍しどころをやってくれて、

面白かったりしたものですから、また出かけてみたというわけでありますよ。


小山実稚恵Produce ピアノの詩人とリート王~ショパンとシューベルト「鱒」@杉並公会堂


こたびのプログラムは、ショパンのノクターン第7番嬰ハ短調作品27-1とピアノ・ソナタ第3番、

これにシューベルト のピアノ五重奏曲「鱒」が組み合わされたもの。

プログラム・ノートでのインタビューに曰く、こんなことが言われておりましたですね。

「鱒」をメインに置いて組み合わせを検討した結果、ショパンのソナタ第3番が相応しいと思いました。冒頭には幽玄なノクターンも入れました。…全体的に非常に華やかな後半に対して、前半のソナタはショパンの中では、非常に力強い、最も規模の大きな作品です。

確かに、ピアノ・ソナタはもとよりですが、ノクターンの方も

ポピュラーなピアノ・ピースにある「きれい、きれい」な曲とは趣きを異にして

いわゆる芸術音楽なるものに沈潜していくストイックさと言いますか、

そうしたものが感じられるところでありました。

それだけに小山さんのピアノもまた重厚の極みであったような。


それが、シューベルトの「鱒」になると一転、

ころころと転がるような粒立ちのいいタッチで流れるピアノの上を

弦楽器が気持ちよさそうに滑っていく…対比の妙という点では、まさにでありますね。


ところで、「鱒」はピアノ五重奏であるものの、

一般的な弦楽四重奏(ヴァイオリン×2、ヴィオラ、チェロ)+ピアノではなくして、

弦楽4人の部分がヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ、コントラバスという独特の編成であることは

よく知られたところ。


31年という短い生涯の中で、シューベルトは彼の音楽を愛する仲間たちに恵まれていましたから、

そうした仲間内にコントラバスをよくする友人がいて…とかいう関係で、

この変わった編成になったのかと思ってましたですが、

どうやら違ったようですね、プログラム・ノートによれば。


なんでも友人との旅で巡ったシュタイアー地方で、

ある町の音楽愛好家にシューベルトたちは一宿一飯の恩義を受けたそうなんですな。


音楽愛好家ですから、仲間たちが集っては合奏するてなことがあったようで、

折しもシューベルトが訪れたときに練習していたのがフンメルの室内楽曲、

これがコントラバス・パートを持つ曲であったのだとか。


はたと気づけば、目の前に作曲家。

どうにもコントラバス・パートを含む曲が少ないことから作曲を頼んでみると、

何とも人が好いことにシューベルトは快諾…というのが、「鱒」五重奏曲の誕生話だそうで。


それにしても、旅先での唐突な作曲依頼に対して、

全曲でだいたい40分くらいにはなろうかという五楽章構成の立派な曲を仕立ててしまうとは、

シューべルトは何とも人が好いというか、恩義に厚いというか。


とまれ、これを作ったときのシューベルトは22歳、文字通りの若者。

それだけに、水の中を泳ぐ鱒のようす、またそれを包み込む水の流れるようす、

いずれもが清冽な躍動感に溢れておりますですね。


今回の演奏も、臨時に招集された5人のメンバー(もちろんプロではありますが)は

互いに目配り、気配りで合奏を作り上げていくといったふう。

シュタイアーのアマチュア演奏家たちもこんなふうに練習していったのかなと、

先の誕生話に触れて思うところでありましたですよ。


しかしまあ、このところ毎週末に何かしらの演奏会を聴きに行っておりまして。

あれもこれもとついついチケット入手に勤しんでいたところ、気付いたこういうことに。

で、来週はいよいよ「第九 」でありますよ。2014年も終わりが近いですなぁ…。