ハンブルク最後の一日がハンブルク最後の晩になってきた頃合い、
リューベックでは二度ほど演奏会を聴いたシュレスヴィヒ・ホルシュタイン音楽祭
の一環として、
ちょうどハンブルクのコンサートホールで開かれる演奏会があり、出掛けたのでありますよ。
その会場というのが「Laeiszhalle」(ライスハレ)でありまして、
名称はこのホール建設に多額の寄付をした船主ライス夫妻に因んでの命名のようです。
ただ、ハンブルクと音楽を結びつけて考える時に頭に浮かぶのはどうしたってブラームス
。
ホール前の広場は「ヨハネス・ブラームス広場」と名づけられていますし、
ホールの隣接地にはこのようなモニュメントが置かれているのですね。
サイコロ状の石にレリーフが施してありますけれど、これはひとつのサイコロを別方向から見たところ。
いずれもブラームスの肖像で、若い頃から老年へ(上右→下左→下右→上左)の変遷が刻まれているという。
ところで、この日の演奏会に登場しましたのは
クリストフ・エッシェンバッハ指揮によるグスタフ・マーラー・ユーゲント管弦楽団、
曲目はリームのピアノ協奏曲(ドイツ初演)とチャイコフスキー
の交響曲第5番でありました。
ユーゲント(例えが悪いですが、ヒトラー・ユーゲントのユーゲント)ですので、
要するにユース・オケでして、それだけにリームの曲に果敢な挑戦をしたりするのかもですが、
(これは晦渋な曲だったぁ…)チャイコフスキーの方は漲る若さの炸裂する「爆演」ではなかったかと。
元来、チャイコフスキーの5番は爆裂系の曲ではありますけれど、
それを力任せ感の聴き手に悟らせるでなく、一種の爽やかさも纏いながらとなると、
これは大した名演であったと思うのですよ。
列を挟んで隣り合ったところにドイツ人のおじいさんが座っていたですが、
この方が(こういってはなんですが)だいぶくたびれたふうで、衣類もよれよれ、
そして何かの病気でもあったか、片方の手の指は大きく反り返って固まってしまっているようす。
席に着いたときには静かにひたすら沈潜して聴いてかえるのかな…と思ったりしたところが、
チャイコフスキーのフィナーレが終わるや否や、指ももぎれんばかりに(冗談になりませんが)
体を揺すって大拍手しているではありませんか。
こちらも負けじと?大拍手を送りながら、期せずしてお互いにうんうん頷きあうという一幕。
やはり強い印象を残す演奏であったことは間違いかったようでありますね。
ちなみに、個人的なことですが、スタンディング・オベーションに及んだ数少ないひとつとなりました。
ということで、演奏は素晴らしかったんですが、ライスハレというこのホール、
歴史的建造物でもありましょうけれど、かなりあちこち綻び気味な気がしますですね。
エレベ川近くにエルプ・フィルハーモニー
が新ホールとして建設中なのもむべなるかなという気が。
シュレスヴィヒ・ホルシュタイン音楽祭のプログラムによれば、
この指揮者、このオケ、この演目が翌日にはリューベックのコンサートホールで演奏される由、
そちらで聴いたら尚一層だったかな…とは無いものねだりでありますけれど。
ともあれ、このような演奏会であったものですから、気分も高揚したまま、
その後のアルスター湖畔花火大会 へと繰り出すことになったわけでありますよ。