今回は誘われるままに赴いた、基本は花々堪能の旅だものですから、
個人的な思い入れで訪ねた場所は僅かなのでして、
そんな中のひとつが例幣使街道
沿いにある佐野東石美術館でありました。
美術館名になっている「東石」とは、東京石灰工業株式会社のことだそうですから、
同社コレクションの展示館ということになりましょうか。
本社は東京の茅場町と、佐野との関わりが今一つ判然としませんですが、
発祥の地は佐野なのかもしれませんですね。
美術館の建物は同社のビルの一部、同じビルの中には事業所もあったようですし。
で、手がけている事業は砕石業ときけば、
泊まった宿の東側に開けた展望の先にどう見ても自然ではない、
切り崩したような山肌の見える光景がありましたですが、
ああしたことと関係のある事業なのかなと。
ま、それはともかくとして、美術館です。
市観光協会の案内には「近現代の日本美術を四季に合わせて鑑賞できます」とあり、
絵画半分、陶芸半分てな感じの展示になっておりましたですよ。
特に陶芸では人間国宝の田村耕一が佐野市出身ということもあってか、
収集に力が入ったのかもしれませんですね。
(市内には他に田村個人の作品を集めた陶芸館もあるようです)
ただ、陶芸に関しては取り分け疎く、
板谷波山と言っても「もうじき泉屋博古館
で展覧会とHPに出てたかな」とか、
虹色の皿を見ては「おお、MOA美術館で見た…けど、誰だっけ?」とかいう体たらく。
ですから、自然と絵画を中心に見て回ることになるわけでありますよ。
折に触れてコレクションの展示替えをするんだと思いますが、
訪ねたときの展覧会は「棟方志功と栃木県の作家たち」というもの。
棟方作品が厭うものではないものの、受付でもらったリーフレットに紹介されている
横山大観の屏風「瀑布」(ナイアガラと万里の長城
を描いた六曲一双)は
つくづく見たかったなあと思いますが、これひと組で相当展示スペース食っちゃいますね…。
いちばん気に入ったのは、加山又造の「蝶」という作品。
ポストカードを買ってきたですが、まずもって面白いのはタイトルですね、
「猫」でなくって、「蝶」です。
蝶の動きを食い入るように見る余り、完全に猫は静止している。
つまり絵の中で動きを想像させるものは蝶だけであって、
そう思うと蝶こそがこの絵の主人公であることに合点がいくような。
そして、猫の方はといえば見つめるあまり、目の玉までが蝶の色に染められている。
思いもかけず大きな影響力を発揮する蝶の姿は
ついつい「バタフライ・イフェクト」に思いを広げてしまいそうにもなるという。
加山又造の技でありますなぁ。
現代ものでは、文藝春秋の表紙絵を手掛けた平松礼二などが印象的かと。
ともすると渋い世界を思い描く日本画ながら、
絢爛豪華もまた雅びであると思うところでありますよ。
ということで、またひとつ山椒は小粒での類いの小さな美術館探訪でありました。