ひと月余り前だったでしょうか、TV東京の「街道歩き旅」という番組で
日光例幣使街道を取り上げていたことがありました。


何となく見始めたら、全行程125㎞を3組の芸能人がリレーウォークするというのを
何となく最後まで見てしまったんですが、この中に渡良瀬川が出てきていたのですね。


徳川家康が東照大権現として日光に祀られて以降、
京の都から日光に向けて例幣使という使節が遣わされるようになったそうなんですが、
往路は中山道を通って、途中上州倉賀野で東へ逸れ、日光を目指す。

この道筋を例幣使街道というのだとか。


東照宮参拝の後は日光街道で江戸に下り、その後は東海道を通って京に戻る。
これが定番ルートだったようですが、この例幣使という使節、
とにもかくにも沿道の住民には評判が悪かったらしい。


東照大権現への敬意を示す使節とはいえ、
京の側からみればお義理で型どおりであれば誰でもいいようなお役目。
ですから、とても摂関家から人を出すなんてことはなかったのでしょう、
中途半端なお公家が遣わされるわけですが、中途半端でも気位は高く、
ましてや公式な使節団であるぞよとの思いから、どの宿場でもわがもの顔で振舞ったそうな。


足利自体はこの例幣使街道の通り道には当たっていなかったんですが、
市の南側に八木宿というのが設けられ、民謡として知られる八木節はここから出たものだとか。
もしかすると、使節団をもてなすための宴会芸が出所かもしれませんですねえ。


…という例幣使街道の道筋を辿る番組の中に登場した渡良瀬川では、
街道筋からは少々外れるものの渡良瀬橋がクローズアップされておりました。


何ゆえのクローズアップかと思っておりましたら、
何でも森高千里さんが自ら作詞し歌った「渡良瀬橋」という歌があり、
その舞台となった渡良瀬橋を眺めやる堤防の上には歌碑が置かれた上に
碑のそばのスイッチを押すと森高さんの歌声が流れてくるということになっているという。
全く知らないだけに、何がありがたいんだか…と思ってしまったものです。


で、そうしたこととは関わりなく足利に来てみますと、
案内所でもらえる観光マップのようなものには必ず載っているのですね、
「渡良瀬橋歌碑」として。


もちろん当初から「絶対、ここ行くぞ!」と思ったりすることは全くなかったですが、
草雲美術館 から町の中心へ戻るには、そしてどうせなら渡良瀬川の雰囲気をもそっとと思うと
自転車で堤防の上を走ることになったりするわけです。


渡良瀬川堤防より織姫神社を望む


すると、先に訪れた織姫神社 が川の方からはこのように見えるのだなと思ってたりするうちに
渡良瀬橋歌碑は「ああ、あそこだな」と気付いてしまいました。


なぜに「ああ、あそこだな」と気付くかと言えば、
信号でもないところに一人たたずむ男性の姿が見えたからなんですね。


自転車で乗り付けると、例のスイッチを押したのでしょう、
流れる森高ソングに耳を傾けながら歌詞の書かれた碑を、その男性は見つめていましたですよ。


中年の人良さそうなおじさん風でしたので「これ、有名なんですか?」と聞いてみましたら、
「有名です!」ときっぱり。そして「知らないですか?」と。


「全く知らないんですが、観光マップにあったもので…」と言いますと、
「そうですか、お若い人には仕方がないかもしれませんね」というその男性は、
おそらくは同年代か、さして変わらないものとこちらからは思えたですが、
まあ「お若い」と言われたことを敢えて否定はしませんでしたが(笑)。


はっきり言って森高千里と聞いて、ただの一曲も思い浮かばない人間ながら、
遠い目をして懐かしがっているその男性としばしの語らいタイム。


そこで、その方が隣の太田市(群馬県です)から来たときくや、
「では、県境を越えてきたんですね?」と問い返すと「いやあ、むこうとこっちですから」。


そも栃木県である足利市が群馬県に取り巻かれるようになっていることで、
県の意識みたいなのはあるのかどうかと疑問に思ってましたが、
逆に群馬県側の方の意見ながら、県境なんつう意識は無いというのが結論かもですね。


ちなみに、その男性はこのあと、
歌詞の中にある「床屋の角にポツンとある公衆電話」を見に行くと言ってました。
実はとってもなファンなのかもしれませんですなぁ。


さらに「足利には大坊山って言って見晴らしのいい山があるんですよ」などなど
話は尽きないものですから、本当は写真だけ撮って素通りと思っていたところが
なかなか写真も撮れない。結果的にボケたの一枚きりとは…。


渡良瀬橋


渡良瀬橋歌碑

ついでだからと歌碑の方も一枚。
そして、おじさんは西へ、こちらは東へとお別れしたんですが、
歌にまで歌われた渡良瀬橋としては先の一枚ではどうにも気に入らない。

そこで、翌朝に東武足利市駅に近い中橋から望む渡良瀬橋を撮ってみたのですね。


朝の渡良瀬橋(中橋から望む)


本来、歌詞を気にとめているなら夕刻を狙わねばならんのでしょうけれど、

朝ならではの澄んだ空気の中、まずまずなのが撮れたかなと。


詩が浮かんでくるほどではありませんけれど、
自分にとっても渡良瀬橋は素敵な風景として刻み込まれたのでありました。