BBCワールドの「アメリカ芸術探訪」という3回シリーズを見ようと録画しておいたんですが、

さて見ようと思いましたらその1回目の時間に何事かでも起こったのか、

早送りをすれどもすれどもずうっとニュース番組が続いており、

あれよという間に録画時間が終了ということに。
あらら…でありますね。


かつて家庭用VTRが出回ってもレンタルビデオでそうはいろいろな映画が見られなかった時代、
民放で深夜に放送される映画番組をよく録画したものですけれど、
たまに野球中継が延びたりしていて、何とも中途半端な録画が残される…てなことも。


そんなのをうっかり見始めた日には結末が分からないままにぶっつりと切れてしまい、
何とも情けない表情で画面を見続けたこともあったような。
見続けたところで何も映らないのですけれど(笑)。

(そういう例に「ディア・ハンター」があり、結末を知らないながら、見る気になれない…)


こうしたことも遠い過去のような気がしてましたが、今でもあるんですな。
で、見損なった第1話は「開拓時代の芸術」というタイトル。
とかくアメリカン・アートとして語られるのは20世紀以降のものがほとんどでしょうから、
以前中公新書の「青年期のアメリカ絵画」を面白く読んだことを思い出しても
実に気になる内容だったのですが、致し方なし。


ということで、気を取り直して第2話の「発展するアメリカの芸術」と
第3話「既成概念に挑む芸術家たち」を見たわけですが、取り上げられていたのは
前者では主にジョン・F・スローンやジョージ・ベローズ、そしてエドワード・ホッパーという
「アシュカン・スクール(Ashcan school)」に連なる画家たち、後者でのメインは
ジャスパー・ジョーンズとアンディ・ウォーホル となりましょうか。


先ごろ東京ステーションギャラリーで見た「英国芸術の現在 」を思い出すまでもなく、
第3話の方は、アートには思想が込められているも、それを敢えて受け手には
一筋縄では伝わらないようにしているのかな…といった作品作りになっていきますが、
第2話で取り上げられていたのはもそっと素朴。


もちろん伝えたい何かしらの思いが込められていることには変わりはないのですが、
見たままの画面でストレートに伝えようとしているものですから。


「アシュカン・スクール」(日本では「ゴミ箱派」とも言われるようで)の作家たちは
伝統的な美術観にある「美しいものを写し取る」という常識に適わない対象を選んだ人たちで、
それこそ街中のゴミ箱をも写し取るように、庶民の現実を切り取って見せたのですね。


激しさの点ではジョージ・ベローズと言えましょうか。
クローズアップして筆致を見れば、マネあたりを思い出すふうで動きを描出してるなと思いますが、
絵の全体像から受ける印象は衝撃的とは言い過ぎにしても、
かなりインパクトが強いものになっていますし。


系列的には延長線上というか、一派ではあるのかもですが、
エドワード・ホッパーはクールですね。むしろひんやりとした冷たさが感じられます。
これはこれで当時のアメリカの現実を切り取ったのでありましょう。


例えばニューヨークという大都会。
決して眠りにつくことのない町。


ですが、どこもが喧騒に包まれているわけではなく、
ホッパーの代表作のひとつ「ナイトホークス」のように
どこかしら人通りも途絶えた街角のダイナーに佇む人々には会話もなく、
それぞれに孤独を纏っているような世界が確実にあったわけで、
おそらくは今もあるでしょうし、何もニューヨークに限らず、東京にだってあるでしょう。
同時代を切り取ったはずが普遍的な世俗画になっているとも言えるかも。


ポスター エドワード ホッパー ナイト ホークス(Nighthawks) 1942/エドワード ホッパー


一方で気付いてみたら…何ですが、これも当時のアメリカの現実ながら
全く別の一面を描き続けた画家がおり、二人とも重なる時代を生きていたということに
「そうだったかぁ…」と。


1882年生まれで1967年に亡くなったエドワード・ホッパーと、
1894年生まれで1978年に亡くなったノーマン・ロックウェル。
ロックウェルの方がひと回り下になりますけれど生きた時代はかぶってますですね。


ねこの引出し アメリカ製ノーマン・ロックウェルのポストカード THE ROADBLOCK/ねこの引出し


ホッパーの冷たさ、冷やかさとは正反対に、ロックウェルは何と暖かな印象を与えてくれることか。
毎回サタデー・イヴニング・ポストを飾った温もりのある絵の数々には
「こんなことばかり、あるかい!」と突っ込みをいれたくなる向きもありましょうけれど、

確かに同時代のアメリカの一面であることには間違いないのでしょう。


ホッパーの側面で見ても、ロックウェルの側面で見ても、

それが全てと思ってしまうとすれば、アメリカはそんなに単純でないですよね。

同じように一面的に考えるのは、日本でも他の国でも理解が足りないてなことに

なりましょうし。


ま、当たり前といえば当たり前のことですが、

こうしたことに思いを致しただけでも、番組を見た甲斐があるというふうに思いましたですよ。