美術館詣での話のわりに

「ニイ・カールスベア・グリプトテク 」ではいささか消化不良気味でしたが、
それを取り戻すかのように国立美術館(Statens Museum for Kunst)で

絵画作品に囲まれてきた…とまあ、そういうお話に続きます。


デンマーク国立美術館


国立美術館の使命としては、

当然ながら自国作家の作品を称揚し、広く紹介し…というものがありましょうね。


ですからデンマーク作品が多く所蔵され、展示もされているわけですが、
その一方で自国民への美術教養の啓蒙的な側面からすれば、
外国(デンマークから見てですが)の佳品を揃えておくということにもなります。


そしてこういっては何ですが、
デンマーク外からここを訪れる者の多くは後者に期待してというのが、本音かと。


ですが、9月に入ったこの時期、北欧では夏の旅行のハイ・シーズンはすでに過ぎ去ったのか、
例えばオスロの王宮 が大工事中とは触れたものの、それ以外にも、
そしてまたコペンハーゲンにおいてもあっちこっちが工事中なのですよ。
そう言えばクロンボー城 も工事中でしたっけ。


とまで言うからには、この国立美術館もまた工事中でありまして、
幸い内部には手を付けていないようで鑑賞には支障ありませんが、
外周りではやおら工事用の足場を渡って入り口にたどり着くという具合。

上の写真で、入り口まわりが妙にごちゃごちゃしているのがご覧いただけると思いますが、
いやはやです。


そんなことはともかく、内容的にはかなり満足すべきものであったなと思いますね。
ストックホルムはいささか小ぶりの印象でしたし、
ヘルシンキとオスロはそれぞれ特別な回顧展が開催中でしたから全貌は不明ながら、
北欧各国のメインとなる美術館の中で、ここコペンハーゲンはなかなか見応えがありますですよ。


例によって常設展部分は写真OKでしたので、

「お!」と思ったいくつかを取り上げてみるとしましょう。
毎度毎度「?」の画質ではありますが、

「本物が見たいぞ」気分が湧いてきたとしたらお慰み…ということで。


カルロ・ドルチ


まずは「上野の西洋美術館で見たことあるような…」という方、正解です!

西洋美術館の常設展を覗く度に見入ってしまう「悲しみの聖母」を描いたカルロ・ドルチの作品。


同じ聖母像ですけれど、こちらの方がお顔のアップでありまして、

「悲しみの…」というよりドラマ性よりも、見る側の視線から逃れるようなしぐさは

タイトル(The Virgin)どおりの初々しさを感じますですね。


お次も宗教画ですが、フィリッピーノ・リッピの作品。

このころの作品は当然のように平板なものですけれど、

レリーフのような奥行きが描かれた人物たちを活き活きさせてますよね。


フィリッピーノ・リッピ「The meeting of Joachim and Anne outside the golden gate of Jerusalem」


今度は静物画を2点。

いずれも17世紀オランダの画家、ウィレム・カルフの作品です。


ウィレム・カルフ「Pronk still life with Holbein bowl, nautilus cup, glass goblet and fruit dish」 ウィレム・カルフ「Pronk Still life with a Chinese sugar bowl」


静物画に関しては鑑賞巧者ではないのですけれど(ま、他もそうですが)、

以前ちと静物画の探究を行ったときに「すげえなぁ」と記憶に残った画家のひとりがカルフで、

これこそ実物を見ていただかないとさっぱり?…ながら、

細密な写実描写の筆の冴えはやっぱり「すげえなぁ」でありましたよ。

特に金属面ですよねえ。


と、ここでちょっと息抜きに。


欧州版鳥獣戯画?


欧州版「鳥獣戯画」ですかね。

スケートを発明したとされるオランダならではの発想かもです。


さて、大家登場ですけれど、最初はルーベンス。

ルーベンスと言うと、美術館の展示室の壁一面を埋め尽くすかのような

工房作による大作が思い出されますけれど、目をとめたのはこんな作品。


ルーベンス「The ascent to calvary」


小さなデッサンとも思しき作品はまさにルーベンス自身の筆であろうかとも思わるわけですが、

その逞しくも迷いのない筆致に(工房でなく)本人の技量を見るような気がします。

アントワープのルーベンス・ハウスで自分用に取っておいたものか、

そこでこうした作品に見入ってからはこうした作品に出合うとついついしばしの足どめになってしまいます。


そして、いかにもレンブラントらしい作品も。


レンブラント「Supper at Emmaus」


光と影の画家と言われるレンブラントですけれど、

この凝縮力は大変なもの。見る側にも集中力を強いるという点で疲れますけれど。


というところで、いきなり近代へ行ってしまいますが、マティスの自画像です。


マティス「自画像」


冷静に考えてマティス自身がこのような顔色であったとは思いませんが、

そこはフォーヴですから、自分の顔だろうと容赦なく描く。

当然ではありましょうけれど、これはこれでいかにもフォーヴィスムになってますですね。


そして同じ自画像でも、モディリアーニの場合はこうなっちゃいます。


モディリアーニ「Self-portrait as Pierrot」


自身をピエロに見立てて描いたものですけれど、

長い首にのっかった面長な頭部、いかにもモディリアーニながら、

珍しく?表情が見てとれる感じがしませんでしょうか。

扮装して、ついにんまりだったのかも。


と、あれこれ見てきたところで、いよいよ(?)デンマーク絵画に移りましょう。


Christen Købke「A view from Dosseringen near the Sortedam lake looking towards Nørrebro」


ところが、ここまでのところで閉館時間が迫ってきてしまってまして、

取るものもとりあえず、ハンマースホイの展示室を探すことに。

で、ほどなく発見!


ヴィルヘルム・ハンマースホイの展示室


時間が時間ということもあって、

何とも静穏な環境の中で相対することになったハンマースホイ。


ヴィルヘルム・ハンマースホイ
「Interior in Strandgade, Sunlignt on the floor」


絵の世界とマッチするようでもあり、しばらく佇んでいたいと思ったところへ、

警備員からは「早く出て行かんかな」光線が放射されているようす。

ハンマースホイの世界は、デンマークだからということではなさそうですね。

やはりハンマースホイの個性ということで。


ま、このように満足すべき内容であったとは思うものの、

まだまだ見られるものがあったはずとなれば、

ここもまたいつぞやの再訪を館がてしまいますですね。

いつになるかは別として、少なくとも玄関まわりの工事も済んで、きれいになってることでありましょう。