本日の聴き比べの曲はブルックナーの第8交響曲の1887年版(第1稿)です。
一般に聴かれるのは、作曲者自身の改訂により1890年に初演されて大ヒットした第2稿です。
私は野趣に富んだ第1稿を支持しており、第2稿はブルックナーが当時の世相におもねる形で改変を行ったものと認識している為、第8交響曲としての正当性は第1稿にあると考えています。
聴き比べたのは次の2人の指揮者です。
1.ゲオルク・ティントナー(1917~1999)指揮アイルランド国立交響楽団
2.ミヒャエル・ギーレン(1927~2019)指揮南西ドイツ放送交響楽団
2人の指揮者に共通しているのはユダヤ系であることです。
片やティントナーは2021年6月13日(↓)で取り上げた通り、80歳でCDデビューとなった文字通り苦労人です。
https://ameblo.jp/joseph-99/entry-12680253053.html
ティントナーが指揮した第8交響曲第1稿は発売当初大変な話題となり、セールス面でも大成功だったと記憶しています。
理由は、第1稿の初録音盤であるエリアフ・ヨーゼフ・インバル(1936年生)指揮フランクフルト放送交響楽団の演奏のテンポが非常に早く、細部が聴き取りにくかったのに対し、ティントナーは一音一音を正確に刻むテンポ設定となって細部が克明になったのがその理由です。
対するギーレンは1950年にヴィーン国立歌劇場の練習指揮者からスタートし、ヨーロッパではどちらかというとマイナーな歌劇場の音楽監督やオーケストラの首席指揮者を歴任してきた、同じく苦労人です。
解釈面では、第4楽章の冒頭及びその関連個所のみテンポを早くし、それ以外の箇所は遅めのテンポを基調としていることが共通します。
ギーレンは、第2楽章スケルツォではさらにテンポを落としてアクセントをつけています。
ティントナーは基本的にはインテンポ(全曲を一定のテンポで通す)で、ブルックナーの音楽には一貫性が求められることを示しており、そこがギーレンとの面白い対比となります。
又、両盤ともチェロとコントラバスを左に配する古典型対向配置となっています。
面白い点は他にもあります。
ティントナー盤からはヴィーンフィルに非常によく似た響きが聴こえてきます。
これから推察できることは次の2点です。
・ティントナーは「ブルックナーはヴィーンフィルの音を想定して作曲していた」と認識
・ティントナーはアイルランドのオケからもヴィーンフィルに近い音色を引き出す手腕があった
ティントナーはヴィーン出身であり「ブルックナーはわが祖国の作曲家です!」と主張しているかのようです。
その点、ギーレン盤からは金属質の現代的な響きが繰り広げられます。
元々ギーレンは20世紀音楽を得意としてきたこともあり、後期ロマン派の時代にあって新古典派のブラームスを飛び越して新バロックとでもいうべきブルックナーの前衛的な本質にとことん迫った演奏と言えます。