左腕を背中に回すと

浮き出た肩胛骨に指が触れた

月の輪郭をなぞるように

波間をするりと抜けていく一艘の舟につられて

どっぷりとした冷たい水に

頭から突っ込んでいるような


まぁつまり

一緒にいたとか触れていたいとか

そういう言葉に集約されるだけだから

まったくもって面白みのカケラもないまま

正体不明の楽しさと、夕焼けへの憧れと、ぬくもりと

そんなモノがかき集められて

ココロという器に詰め込まれて居るみたい。


ソフィア・ローレンのようなアイメイクは

あなたを遠ざける武器にも

あなたを誘き寄せる餌にもなるがいいのに


いい加減伝えても良い?


私はあなたと肌をふるわせて眠りたいのだ、って。



百合の花のようになりたいの。

派手に着飾って、甘い香りを放って、

まっすぐにすらっとたち、軽くうつむいて。

そしてだまって虫たちの来訪を待つだけの女。

宇宙を夢見る女の子

これが本当の人生に一回の恋であったなら良いのにと願う女の子

地球の裏側の戦争より明日履くスカートの方が大切な女の子

紫のアイシャドゥを塗って、一度顔を洗ってから出掛けた女の子

髪を耳にかけるのが好きな女の子

ギターを運ぶ女の子

爪ばかり見ている女の子

電車の外を見て熱い腕を夢見る女の子

綺麗な石が宝物の女の子

砂に足をうずめるのが好きな女の子

一人では寝られない女の子

車の中で眠る女の子

ガラスの靴を履いた女の子

リンゴが好きな女の子

フォークとナイフの使い方が巧い女の子

物乞いをする女の子

夕日に輝く頬を持つ女の子

彼女たちは月の王宮に魂をうずめてる

なぜこんなにも発信したいのだろうか

私。

私。私を。私を知って。


「ただ生きるだけなのにこんなにもつらい」

なんて

「ただ生きるというのは難しい」

の。


私は彼を求めてるし

彼は彼女を求めてるし

彼女は月のむこうの見えない星を追っている。


人生が輪であったなら

人は目的など持たずに生きるね。


私は流れ星。

人が一番不可解なブラックボックスだと言うことを知っていれば

よけいなことに頭を悩ますこともない。

相手の嗜好が完全に自分のモノと一致することはない。

共感が得られたと感じたときですら

その感動を形作る過去の明かでない経験は必ず食い違うモノであり

そしてそれにいちいち不安をかき立てられる私ときたら

もっとも正しい形の趣味を持っていると考えがちであり

それは相手も同様である。

誰かを信じていたい、なんて嘘

信じられたいのも嘘

常に疑って疑って探り合って 深みに行きたいの

表面張力

軽く触れて中身をどろどろ垂れ流してもいい

かかとから太い釘を打ち込まれたように

膝は砕け

若い果実のようなふくらはぎは貫かれ

私は月すら目をやらない騒音の中のコンクリートに

崩れ落ちるの

差していた傘は手のひらから体に突き刺さって

ずぶずぶと私の体に侵入を始める

「これは戒め」

肘の骨が飛び出して

皮膚をしならせて血が噴き出す

内出血で体中が紫色に腫れ上がり

すました表情のまま私は

車に轢かれるのを待っている


視界に浮かばない林檎の樹

樹上で語った想いのひとひらだって

私の頬をなでていってはくれないの

腰骨が体からずり落ちてしまいそうだ

大海の真ん中で足を取られるより

永遠にとぎれない枯れた木の呼吸を聞くより

今の私の右肩と左肩の間にあるこのおおきな塊は

深呼吸するのを待っているようだ

必然的に出る孤高の絵画は

果てない深みを黒と灰色で描き出す

つまらないあきらめや恐れは

鉄のような甲羅に覆われた毛むくじゃらの蜘蛛のように

私を捉えて離さなかった

毒針が喉元に突き刺さり

赤黒い血がブラウスを濁していく

体を這い回る強欲な害物は

あどけないほど当然のように命をかっさらって

後は眠るだけの私を

偽の光の世界に宙づりにしている


彼が私の人生に入り込んできたのはいつ頃からだろう

最初は消え入りそうな薄いもやだった

それが 早朝の霧の立ちこめる波止場のように

そして私は漂う浮きのように沈み込んだのは

おそらく本の読み過ぎなのかも知れないし

「人生」という言葉を早くに知りすぎたせいかもしれない

私が13くらいの時は

彼は断片的にやってきて

時に激しく私をぶった

私を陵辱して立ち去るときもあった

16くらいになると

どうしてか彼の行為に価値を見いだすようになった

進んで彼を求めたときもあった

それはいつも少し悲しみを含んだまま

甘い陶酔とそして必ず水があった

滴るような樹液!

私は彼に名前を付けた

それはとてもリリカルで

メランコリック

葉のないフラフラと揺れるか細い木が立ち並ぶ暗い林をハミングしながら散歩するようなものだ

18になって

私は彼と二人だけで生活するようになった

学校にまでついてくるときもあった

誰かと居るときも背後にいるようになった

友達の目の前で私を犯しているときもあった

そんなとき私は涙目になりながら乾いた眼で笑って見せた



余韻

余韻

余韻

余韻

余韻

余韻

余韻

余韻

余韻


私が欲しいモノは

きっと誰も与えてくれないし

自分で手に入れることもできないし

だから結局

自分でつくるしかないんだよ

如雨露で虹をつくるように

触れられないってことを知りながら手を伸ばすの


遮断機が下りて

目の前に一陣の風

猫をたくさん載せた荷車を

真っ赤な足の2匹の鬼ががちゃがちゃと音を立てながら引いていった

青い目の白い猫が私の前で荷台から飛び降りると

猫の目から青い目が二つともこぼれ落ちた

荷車をひきいていた鬼たちはとまどって

荷台を大きくゆらして猫たちの目を回してから

その白い猫と青い目を爪の長い大きな手で拾い上げ

私に会釈をしてから

また荷車を引いて去っていった

それから猫のにゃぁにゃぁ言う声が

脳裏に残って眠れない

あの白い猫を抱いて

ふわふわの背中に吐息をかぶせながら

甘い夢に落ちていけたならと

どれほど願ったか分からない長い夜