それは山吹色の絵だった。
僕は箒を持って立っている。穏やかな午後だった。夏の暖かな風がさざ波を立てるように廊下を渡っていく。
山吹色の絵は、不思議な光景を描いていた。ライオンにくるまれた檻の中に、小さな毒虫が閉じこめられている。
山吹色は、その大きなふわふわしたライオンのたてがみだ。
その美術館は大通りからすこし路地を入ったところにある、細長い建物だった。入り口と、一番奥の勝手口を開けると、そこはまるで道の延長のトンネルのようになる。
山吹色の絵はそのちょうど中心だった。
僕はかぶっていたくたびれた帽子を取って、裾の汚れを払ってから、もういちど絵に目をやった。
絵は、山吹色のたてがみと、それを埋めるように押し込めている大量の銀杏の葉が大半を占めている。その細かく刻まれた明暗が、まるでその絵自体が採光を放っているかのように見せた。
僕はこの絵を知らなかった。
シュルレアリスムというやつかもしれないな、と僕は思った。ただ、シュルレアリスムにしては線が曖昧すぎる。画面がぼやけているのだ。
ダリやマグリットの超現実といわれる絵画は、一つ一つが迫りくるようにリアリスティックに描かれており、それが見る側に漠然とした不安と興奮を与えるものだ。
ところがこの絵は、超現実というよりは、もっとファンタジックだ。絵本の挿絵であったなら、もっとしっくりくるだろうな、と僕は思った。こんな仰々しく額に入れて壁に掛けるべきではないのだ。
渦巻くような銀杏。暖かそうななめらかな毛皮に包まれたライオンの体は柔らかで、中の檻は、締め付けられていると言うより抱かれているように見える。
それにしてもこの中にいる毒虫だ。そうだ、これだけが現実なのだ。
うごめく大量の足。ぬめぬめとした甲冑。細く俊敏な触覚に、曇った目。
僕はこれこそがグレゴール・ザムザなのだろうと思った。
グレゴールを、ライオンがやさしく抱いている。
ライオンはなんなのだろう。あの、やさしい妹だろうか。あの娘の名前は何だっけ。