ベートーヴェン : ピアノ協奏曲第5番 <皇帝> | JohnnyClassic

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【指揮】 ハンス・シュミット=イッセルシュテット

【演奏】 ヴィルヘルム・バックハウス 

     ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

【録音】 1959年

 

以前から、ピアノ協奏曲はあまり好きでない旨を書いてきました。モーツァルトにしてもブラームスにしても、あれだけ交響曲が素晴らしいのに、ピアノ協奏曲となると全然惹かれません。チャイコフスキーに関しては、室内楽曲でもそうですが、枠からはみ出した筆致で描くため面白く聴こえますが、その辺りの話はまた次回以降に。

 

その様な中で、ラヴェルという本来苦手なフランス物とラフマニノフという近代物のピアノ協奏曲が特に気に入っており、あとは、常にCDでカップリングされるシューマンとグリーグのも好きです。というところで、今回のベートーヴェン、1番から勿論聴いたことがありますが、うーん、やはり惹かれない。この5番は4番とカップリングされる事が多いですが、4番もそんなにいいかなあ、と。

 

この5番に関しては、ベートーヴェンらしい推進力があって、偉そうではありますが、ギリギリ私が聴く範疇に入ってくるという感じです。なくても生活には困らない、そんな感じです。これまで沢山の5番を聴いてきました。以前は、ポリーニとベームのVPOのを挙げていましたが、ポリーニのベートーヴェンのピアノソナタが好きなので、と言った安易な選盤であったかと思います(ごめりんこ)。

 

最近の録音の「皇帝」は、どうもスケールが小さくて、その名に相応しくないこじんまりとした演奏が多いですね。室内楽的な。やはり、私の好みはピリオド奏法とは真逆の大仰なオーケストラ演奏です。先のポリーニのも悪くはないのですが、再び探求してみました。ツィメルマンとバーンスタインのも聴いてみましたが、ツィメルマンが崩し過ぎていてなんだかぎこちなかったですね。

 

そんな中、温故知新ではないですが、この1959年というステレオ最初期の頃の古い録音を聴いて驚きました。バックハウス氏のピアノがとても弾けていて、聴き応えがあります。また、VPOの演奏の録音が信じられないくらい良いのです。昔のDECCA、当時はLONDONでしたが、の録音は、一様に低音が不足していますが、そんな風にも思えず、弦楽陣の演奏はかなり分厚い音で聴こえてきます。ノイズも全くないのですが、これ2004年発売の盤で、CDの記載などを見ても、ADDとしかなく、どの様にリマスターされたのかは載っていませんが、間違いなくどこかの段階で凄いリマスターがかかっています、本当に意外な音の良さでした。

 

まさか、こんな古いのを選ぶとは、というところですが、遡って、遂に自分の中での「皇帝」の決定盤を見つけた!という感じです。ピアノの音はどうしても最新の録音に比べると迫力は落ちますが、溌剌とした解釈がとても好みです。また、VPOのベートーヴェンって魅力的ですよね、これもまた次回以降に書きますが、アバドの80年代の交響曲全集は最高です。ベートーヴェンには、カラヤンのBPOの重厚なイメージがありますが、そこを華やかなVPOが演奏する事で、暗さが取れて、豊潤な味わいになります。

 

やはり、巨匠バックハウス氏を挙げておきたかったところもあります。お亡くなりになる1週間前のコンサートで心臓発作を起こしてもまた舞台に戻られた話や、10代の頃にブラームスの前で弾いて称賛された話、リストの高弟であるなど、逸話も多々残されています。ブラームスの前で弾いたって凄いですよね! その人の録音が今、ステレオの良い音でも聴けるというのは、なんだか時空を超えた感動を覚えます。SNSでキャバ嬢の様な自身の写真を挙げてみたりする様な、とち狂った現代のルッキズムの中では、もはや戦前生まれの巨匠ピアニストの様な方は出てこないでしょうね。だからこそ今、このCDの様な純粋な音楽に魅了されるのでしょう。

 

グラモフォンの最近のCDなんて、意味の分からないタイトルを付けて、もはや何の曲が収録されているのかも分かりません。このCDは潔く「皇帝」だけの収録! 余分な4番もありません。そこも気に入りました(笑)(ちなみに4番は、ベーム翁との1967年の演奏がYouTubeで見れます。)。で、このCDの帯には、「二十世紀ピアノ界の巨人、バックハウスの名演が信じられないこの価格で!!」とあります。売り手が自分で、安いと言ってどうするの(笑) 4番好きな人には損かもよ。

 

イッセルシュテットさんも、VPOとのベートーヴェンの交響曲全集を欲しかった時期がありました。ここにきてようやく初めて、指揮している盤を挙げる事が出来て、これも良かったな、と。

 

あ、肝心の演奏内容についてあまり触れていませんでしたね。第1楽章は19分台に収めています、ここがポイントっ!(急に大きな声になっています(≧▽≦)) この曲はベートーヴェン自身がカデンツァを書いた事で、ピアニストが勝手なソロを弾けなくした曲として有名ですが、それだけに演奏時間も似通ってきますが、殆どが20分超え。正直、第1楽章から20分を超えるとうんざりしちゃうんですよね。そこを飽きないテンポ感で行進していってくれています。

 

第2楽章は、グッと腰を落として、耽溺な雰囲気。この曲のアダージョって、こんなに良かったっけ…と思わず涙ぐみそうになりました。皇帝は、第1楽章の出だしが、即クライマックスかと思いますが、ひょっとするとこの楽章の演奏があったからこそ、この盤を気に入ったのかも、とまで思いました。

 

第3楽章は、モーツァルトのオペラっぽい跳ねたリズムですが、愉悦感があっていいですね。これも他の奏者の盤とSpotifyで聴き比べてみましたが、バックハウス氏のが一番気に入りましたね。

 

ピアニスト良し、楽団良し、指揮者良し、飽きさせないテンポ良し、演奏良し、録音良し、改めて良い盤です。冒頭に書きました様に、これまでこの曲はあまり聴いて来なかったのですが、再発見したベートーヴェンの魅力に溢れるこの盤は、これから何度もリピートしそうです。