百夜/高樹のぶ子著 | 風の行方

風の行方

~ゆるゆると遊び亥♀~
海から生まれていつか空へ

↓ 近所の友だちが貸してくれ、なにげなく読みだしたら、古文ではない丁寧で雅やかな文体に惹かれて、あっという間に読み終えた。

 

 

古今和歌集の和歌にのみ痕跡が残る小野小町を、和歌を基に想像を駆使して描いた物語。

 

期待なく読みだしたら、本に取り込まれてしまった。活字の間から、故郷の東北から京都へ向かう10歳の小町の姿が浮かんでくる。

小町は秋田生まれというのは本当だったのか、と改めて知った。

千年以上も前、日本は秋田の方まで国司を送り支配していたのかと。その赴任した中央の国司が秋田で大切にした女性が小町の母とは。

 

山間の雄勝から、太平洋側の松島へ出る難儀な山越えを、地名を思い浮かべながら、千年も前に街道が開かれていた、という歴史にも目を見張った。

夫によると、天智天皇の時代に始まり、子の天武天皇の時代に大きな7街道の大枠が完成したとか。

天智天皇は偉大だったとの講釈に、趣味の地理が関わると、夫は雄弁になり、さらに聞いていないことまでも話が及ぶ。打ち切るのも悪いし、こうなると息を継ぐまで顔を上げていないと、。

 

別れた母を恋いながら、京都の暮らしに馴染んでいく姿が、折々の和歌とともに描かれてゆく。

 

枕草子の現代語訳では、がっかりしたばかりなのに、高樹のぶ子の情感あふれる雅やかな文章に、すっかり気持ちを奪われた。

読んでいる数日間は、食事の支度に手を抜いた。とても料理に心が行かない。何を作ったかも記憶がない。

 

春になったら書写を古文で「方丈記」と思っていたけれど、その次はこの「百夜」にしようと思った。

 

同じ作者の「業平」も数年前読んだけれど、特に印象はなかった。

この「百夜」の後半に業平も見え隠れする。業平の時は小町は浮かばなかった。高樹のぶ子はすごい小説を完成したなぁと感心するばかり。

 

この本を貸してくれた人は、大河ドラマ「光る君」を見始めたそうだけれど、私はその気持ちは湧かない。NHKでは番組宣伝がたびたび入るけれど、TVの道長も紫式部も、なんとなく心が弾まない。

小町と時代が近いのに。

不思議だけれど。